第129話 お手伝い
「ふう……こんなもんか」
上級ポーションから解毒薬まで予定通りに購入できた。
(ポーション類は調合が複雑なものになればなるほど失敗作が混じりやすくなるし、気を使ったな)
これは別に詐欺とかではなく、単に調合ミスに気づかず出荷してしまう場合もあると言うことだ。
(勿論、腕の良い錬金術師から仕入れている店ならそんなことは少なくなるけど、クロムウェルに始めて来た俺達にそんな店があるわけもないからな……)
ちなみに、中級ポーション以上のものをコンスタントにつかうパーティは行きつけの店がある場合がほとんどだ。
「あ、フェイ! 終わったの?」
店を出たところでばったりとジーナさんと顔を合わせた。
「いい店だったからあまり時間はかからなかったよ」
「それは良かった。あ、もし、時間があればこっちを手伝ってくれない?」
時間は確かに余ってるな。
「いいよ」
「本当? ありがとう!」
っ!
不意に見せたジーナさんの笑顔に思わずドキッとさせられる。しっかりもので普段大人びた印象の強いジーナさんだが、笑顔は無邪気なのでギャップが……
(って、いかん!)
何か最近自制心が弱ってる気がするぞ!
「どうしたの、フェイ?」
「……なんでもない。行こう」
※
(ジーナ視点)
ふふふ……上手く行った。
(実はフェイが時間が余るように計画してたんだよね……)
ついでに言えば、私が行かなきゃいけないお店はフェイが行く店の方向にあるから必然的にこうなるのだ。
(ずるいかな……でも、みんなと比べて一緒にいられる時間は少ないし、このくらいはいいよね?)
私だってフェイと一緒の時間が欲しいんだもん!
「同じ港町でもオルタシュとは随分雰囲気が違うな……」
「そうね……オルタシュは観光地としての顔もあるしね」
過ごしやすい気候で食べ物も豊富なオルタシュとは違い、クロムウェルは寒暖の差が激しくて農地も少ない。だが、そんなクロムウェルでもブリゲイド大陸ではまだ過ごしやすい場所なので、人が集まるのだが……
(かといって、そこまで人が住める場所は広くないのよね……)
必然的に色んな形で土地を奪い合うことになる。そのため、全体的に荒々しいのが、クロムウェルの風土だ。
(まあ、物が集まる場所だから産業も発達しやすく、競争が起きやすいという事情もあるけど……)
とにかく良い意味でも悪い意味でも活気がある街なのだ。
「そう言えばジーナさんは俺達より早くクロムウェルに着いてたんだよね。危ない目にあったりしなかった?」
心配してくれるんだ……嬉しい!
「私はギルド職員の制服を着てるし、大丈夫よ。せいぜいナンパくらい」
クロムウェルでは産業が盛んな分、魔物の素材の提供や魔物の討伐をする冒険者ギルドの力が──
「ジーナさん、綺麗だもんな。そりゃクロムウェルの男もほっとかれないよな」
っっっ! 今なんて!?
「? どうしたの、ジーナさん?」
もうっ! フェイのそう言うところ、悪いところだよ! 嫌いじゃないけどね!
「何でも! 褒めたってなんにも出ないわよ」
これは嘘……もう何でもしてあげたい……
「いや、そんなつもりじゃ……」
真顔で追い打ちとかズルい! 虚勢を貼りきれなくなっちゃうよ!
(もうこれ以上は………)
もう一言でも何か言われたら思ってることが全部でちゃう……
「ばかやろう!!!」
な、なに? 雰囲気台無し……じゃなくて!
(私達に向けた声じゃないっぽいけど……)
周りを見回すとガラの悪そうな男としゃがみこんだ子どもが目に入った。
※
(フェイ視点)
「ばかやろう!!!」
突然近くで聞こえた罵声に振り返ると、そこにはガラの悪そうな男としゃがみこんだ子どもがいた。
(ん、獣人の子どもか?)
子どもが被ったフードからは犬の耳がはみ出ている。確かにブリゲイド大陸には獣人が結構な数住んでるって聞いたな。
「まだ出来てないのか! さっさとやれって言っただろ!」
「す、すみませ──」
「さっさとやれって言ったばかりだろ!」
ビュッ!
男が獣人の子どもに棒を振り下ろす! その瞬間、俺の体は勝手に動いた!
バシッ!
俺の方が動いたのは遅かったが、棒が子どもに振り下ろされる前に難なく掴むことが出来た。一般人と俺ではパラメーターが違いすぎるからな。
「何だ、てめえは!」
あ〜 なんて言おう。何を言っても“関係ないだろ!”って言い返されそう……
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