第127話 湯治

 とりあえず荷物を下ろした後、俺はリィナの部屋に向かった。


「フェイ兄、ありがとう。入って!」

「分かった」


 言われて入ると、既に部屋がしっかりとリィナ仕様になっている。


(す、すげー。俺なんか荷物下ろしただけなのに)


 流石リィナだな……


「フェイ兄、ミアを呼んで貰ってもいい?」

「分かった。ミア、頼む」


 言うが早いか光と共にミアが現れた。


「ミア、やるよ」


 え、何を?


「えっ、あの……リィナ姉様」


「ここに来る前に話してたでしょ」


「はい、でも……」


 ミアは顔を赤くしてうつむいている。嫌がってるというより、恥ずかしがってる感じだな。


「温泉は肌にもいいし、血行も良くなるらしいよ。ものによったらトウジって言って治療に使うこともあるんだって」


「治療……私の回復にも効果が?」


 確かにリラックスすることでミアは元気になってる気がするな。


「やってみよう! さっ、行くよ!」

「えっ、あっ!」


 リィナがミアを引っ張る……あ、あっちは風呂がある方だな。


(あ、一緒に入るのか?)


 それは良いのか?……いや、女の子同士だしいいのか?


「私、タオルとかっ」


「沢山あるから大丈夫! フェイ兄はゆっくりしてて」


 気がつくと飲み物とお菓子が机の上にある。


(むっ……アイスティーに美味しそうなクッキー)


 何て香ばしい香りだ。まるで焼き立てのようだ。


(まさか作りたてってことはないだろ。焼きたてでもないのにこの香りなのか)


 丁度良い焼き加減のクッキーは見るからにサクサクでつい手を伸ばしたくなる。


「さっ、行くよ!」

「は、はい」


 むっ……このサクサク感、たまらないな!


「やっぱりミアはスタイルいいね。この細い腰……羨ましい」


「やっ……リ、リィナ姉様!?」


 こ、これは! まさか一枚一枚味が違うのか!?


「背中もズルいくらい綺麗……思わず触れたくなっちゃう」


「……っ!」


 最初がチョコで次は……


「しかも、こんなに細いのに胸はしっかりあるし……」


「あっ……やんっ!」


 アイスティーの爽やかさが口の中をリセットしてくれるから様々な味が一から楽しめる……


「ミアって可愛い………じゃ、今度は体を洗ってあげるね」


「じ、自分でできま──」


「私がやってあげたいの! じゃあ、まずは……」


「あっ、やっ、ああっ!」


 こんなに美味しいからゆっくり味と食感、香りを楽しみたいな……


「下の方に行っちゃうぞ〜」


「あっあっあっ!」


「ここもしっかり……」


「アン! アン! もう駄目です! これ以上は!」


 むっ……もうこんなに食べてしまった。でも、手が止まらない!


「ここまで来たら止められないよ、ミア。いくよ……」


「や、優しくしてください……」


「分かってるよ、ミア。じゃあ……」


「あああ………リィナ姉様、リィナ姉様! アンッ! アンッ! アンッ!」


 本当、リィナは料理が上手だな!





「あれ、フェイ。一人なの?」


 リィナの部屋を出るとばったりレイアと出会った。ちなみに彼女が“一人”と言ったのはミアを連れていないからだ。


「ああ。のぼせたみたいで、リィナが看てくれてる」


 まあ、そうじゃなくてもこれから大浴場に行くからミアは連れていけないけど。


「そう……なら一緒に行きましょ」


 レイアが持っているのはバスタオル等々……ってことは大浴場に行くつもりか?


(それにしても一緒ってどういうことだ?)


 大浴場は男湯と女湯に分かれてるはずだけど。


「“さうな”って言って暑い部屋に入って汗をかくと、体に良いんだって」


「へえ〜」


 初耳だな。


「どっちが長く入って入られるか勝負しましょうよ」


 勝負って……子どもか!


「どうしたの? まさか、怖気付いたの?」


 むっ……えらく挑戦的だな。


(まあ、やっても損はないか)


 それにレイアにこういう誘うような表情をされるとなんか勝ちたくなるというか……負かしたくなるというか。


「いいぜ。その“さうな”って何処にあるんだ?」


「ふふふ……こっちよ」


 よしっ、負けないぞ!

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