第122話 後ろ盾

「大王烏賊(クラーケン)の件に加えて、今回の騒ぎまで……もはやアリステッド男爵にら合わせる顔がありません」


「全くです……一体どうやって報いればよいのか……」


 そう言って頭を下げてくるのはタイラーさんを始めとしたオルタシュのギルド長達だ。実はオルタシュには領主はおらず、ギルド長が合議で様々なことを決めている。


(本国から離れているからとか聞いたけど……)


 説明してなかったが、オルタシュもサンマーア王国の一都市だ。


(って、そんなことはどうでもいい!)


 こんな偉い人に頭を下げてもらうためには行かないよ。


「どうか顔を上げて下さい。私は出来ることをしただけですし、それは私の仲間も、他の冒険者も、オルタシュの皆様も同じこと。どちらの勝利も皆で勝ち取ったものです」


「「「「「滅相もない!」」」」」


 わっ! 何だ!


「アリステッド男爵。お気持ちは分かりますが、ここまでのことをされるとそれでは皆様の気持ちも中々落ち着かないのではないでしょうか」


 えっ……リィナ?


「聖女様の仰るとおりです、アリステッド男爵。何か相応のお礼をさせていただかないと私達の気持ちがすみません」


 うーん、困ったな。大王烏賊(クラーケン)討伐のクエスト報酬はもう貰ったし、クロードさんの件はクエストになってないから報酬とは無関係──


「クエストになっていたかは関係ありませんよ、アリステッド男爵」


 ぐっ……流石リィナ! 鋭い!


“マスターの寛大なお気持ちは素晴らしいのですが、何かは受け取らないと恐らく彼らの面子が立たないのでは?”


(面子……そうなのか?)


 思わずリィナの方を向くと、彼女はこっそり頷く。そうか、何も知らない人が見ると俺が全部解決したように見えるし、それに報酬が支払われないとオルタシュのギルド長達が悪者になっちゃうのか。


「じゃあ、ここの滞在費用と相殺で──」


「アリステッド男爵は皆様に負担のかからない手段がお望みのようです。が、何分私達は冒険者。皆様のお知恵をお借りできませんか」


 げ、オレのアイディアは不味かったのか、レイア。わざわざ遮らなくても良くない?


「そうですね……街の四方に皆様の銅像、街の中央にはアリステッド男爵の銅像は基本として……」


 は?


「アリステッド男爵にはオルタシュを纏める存在としての役職をご用意させて頂けれように国に手配……申し訳ありません、ここまでは私達のお願いですね」


 お願い? ……ってことはまだ何かあるの?


「オルタシュの一等地の全てをアリステッド男爵の所有地とし、毎年土地代をお支払いするというのは如何でしょう。正直、お礼を即金で払うには厳しくて……何せ生半可な額ではすみませんからね」


 何だって!? 冒険者が土地を持ってどうするんだよ! リーマスには家もあるのに!


「アリステッド男爵ががその土地で何かするとは思われてないのでは? 支払いを遅らせるための方便です」


 小声でリィナがそう囁いてくれるが……いや、だからそんなに金は要らな──


「相応のものを贈らないと彼らが困るのよ」


 レイアまで! 


「勿論、お望みの区画があればどこでも構いません」


「いっそ、冒険者ギルド長も兼任なさっては」


 タイラーさん!?


「ずるいですぞ、タイラー殿。ならば商人ギルド長も……」


 はあ?


「お忘れか、御二方! そうなると全てのギルド長になって頂かなければならなくなるから、私達のまとめ役になって頂くという話になったはずですぞ!」


「そうだった、そうだった!」


「申し訳ない、つい勢いで」


 タイラーさんと商人ギルド長は顔を見合わせると大声で笑い出すんだが……一体何が面白いんだよ。




【オルタシュ冒険者ギルド】



「まあ、皆不安なんだろうね」


 恐ろしい話の後にあった定時連絡でルーカスさんはそう説明してくれた。


「二度目の事件は明らかに何者かの企み。だとすると、大王烏賊(クラーケン)の件もあるいは……と考えるのが権力者というものだ。そして、オルタシュが狙われているのなら力のある誰かの後ろ盾が欲しくなるだろう」


 うーん、何と言ったらいいか……


「勿論、フェイさんの働きに感謝してるのは間違いないと思うわ。だけど、困ったわね……」


 クラウディアさんがそう呟く。確かに困った……


(色んな意味でギルド長のまとめ役なんてゴメンだしな)


 かといって土地を貰ってもな。オレ、冒険者だし。


「まあ、私の方で考えてみよう。ところで、次の目的地についてだ」

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