第121話 記憶

「フム、良い街だ」


 あの後、タイラーギルド長に掛け合い、拘束を解くことが出来た。


(まさか俺達の同伴を条件に行動の自由も勝ち取れるなんてな)


 予想外ではあったが、有り難い話だ。


(タイラーさんからの信頼を裏切らないようにしないとな)


 という訳で俺達はクロードさん──龍人の名前だ──にオルタシュを案内していた。


「それにしても人の姿にもなれるなんて凄いな」


 そう。今、クロードさんは龍の頭や鱗で覆われた体ではなく、完全に人の姿をしているのだ。


「一族に伝わる魔法だ。が、フェイ殿に感心される程のものではないぞ」


 ちなみにはクロードさんは立場がある人っぽいが、普通に話してほしいと言われている。


「そんな。俺はパラメーターは高いかも知れませんが、皆に助けらてばっかりですし」


「君は謙虚だな……魔将星の企みをくじいたんだ。もっと自慢しても良いだろうに」


 いや、俺一人でやったわけじゃ──って、もしかしてクロードさんは魔将星のことを知ってるのか!?


「魔将星について何か知っておられるのですか?」


 リィナがそう問うと、クロードさんは首を振った。


「具体的な情報は知らない。ただ、驚異的な魔力と非常識な戦闘力を持っているのは確かだ……何せたった一人魔将星の前に我らの精鋭部隊千人が惨敗したんだからな」


 なっ……龍人の精鋭部隊が歯が立たないなんて!?


「ただ、奴らは何故か表に出て来たがらない。俺達が戦った相手も恐らく分身だろう。細かことを思い出せないのは、記憶を消されたような感じがするな」


 ってことは何かのきっかけで思い出すようなものではないっていうことか。


「役に立てなくて済まないな。奴らの情報を提供出来たら良かったんだが」


「とんでもないです! それよりどうですか、 貴方の一族の住処等は思い出せましたか?」


 実はクロードさんは一族の元へ帰ろうにも里の位置が分からないらしいのだ。魔導具に閉じ込められ、魔力を吸われたせいなのか、それとも魔力を与えられ過ぎたせいなのか……


(とにかくまずは色んなものを見て貰おう。それと、レイアのオスクリタが吸った魔力を返せたら何か変わるかも)


 まあ、そんなことが出来るのかどうか分からない。だが、とりあえずレイアに聞いてみようと思い、大通りを通りながらレイアがいるであろう宿に向かっているのだ。


「いや、全く。だが、こうして歩いていると自分のこと以外のことは色々思い出せてきた」


「……そうですか」


 俺やリィナの回復魔法では傷を治したり、状態異常から回復させたりすることはできるが、記憶を取り戻すことは出来ない。


(何か方法は……)


 こういうのは療者の方が向いてるかも。ヘーゼルさんに聞ければ……


「そんな顔をするな。記憶は少しずつ戻ってるんだ。しばらく様子を見てみても良いだろう」


 確かにそうかもしれないが……


(いやいや、本当はクロードさんが一番焦っているはずだ)


 ……なのに気を使わせてる場合じゃないな。


「フフフ、君は面白い奴だな。本意ではないとはいえ、私はこの街に被害をもたらしたというのに本気で心配しているんだからな」


「いや、それは──」


「フェイ兄、着いたよ!」


 あっ、もう着いたのか





【海風亭】


「初めまして。私はレイア」

「初めまして。私はクロード」


 実は二人は初対面だ。クロードさんの暴走を止めた後、レイアは気を失ってしまっていたからな。


「君が私の暴走を止めてくれた剣士か。改めて礼を言わせてくれ。君がいなかったらこの街の住民に大きな迷惑をかけてしまうところだった」


「こちらこそ荒っぽい方法でごめんなさい。そのせいで記憶が無くなったって聞いたけど……」


 そう言うレイアにクロードさんは首を振った。


「悪いのはイベルだ。記憶ならそのうち戻るさ。それより、君には命を救われた礼をしなくてはいけないな」


「そんな……私は大したことは。ほとんどフェイがやったことよ」


「確かに彼のしたことは信じがたいほどの成果だが、私の命を直接救ったのは君だ。そうだな……君は何が欲しい?」


 探るような、試すような。別に悪気はなく、レイアのことを知りたいがために発した言葉。だが、それに対するレイアの答えはハッキリしていた。


「力よ」

「……分かった。考えておく」


 やっぱりレイアは……

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