第117話 パニック

(フェイ視点)


 リィナとオルタシュ観光を楽しんだ後、宿に帰ろうかと話していたその時、それは起こった!


「キャアアア! 魔物!」

「助けてくれ〜!」


 突然あちこちから悲鳴が上がる。そして、俺達の前にも……


 ボコッ!


 やったか……力は大したことはないな。


「フェイ兄!」

「力は大したことないが、数が多いな」


 街中ってのも最悪だ。もしかしたら大王烏賊(クラーケン)よりも厄介かもしれない。


「とにかく冒険者ギルドに行かなきゃ! 情報も集まってくると思うし」


「そうだな!」


 俺とリィナは見かけた魔物を倒しながら冒険者ギルドへ向かった。



【オルタシュ冒険者ギルド】



「フェイ! それにリィナも!」

「ジーナさん、一体何が?」


 ギルドについた俺達をジーナさんが出迎えてくれた。


「とにかくこっちに! ギルド長もいるから!」


 そう言われて案内された部屋にはオルタシュの地図を前にして難しい顔をしたタイラーさんがいた。


「おおっ、フェイ殿。有り難い!」


「いや、今はフェイでお願いします」


 俺は冒険者ランクがCに上がったとはいえ、ギルド長に敬意を払われるような立場じゃないからな。


「そうだった、すまないな。じゃあ、アリステッド男爵と情報共有をしたいんだが、いいかな?」


「分かりました」


 そう答えると、俺は〔アイテムボックス+〕から仮面を取り出した。これを着けている時、俺はAランク冒険者のアリステッド男爵なのだ。


「これが現段階で分かってる情報です」


 タイラーさんはある冒険者からの情報を教えてもらった。


(この魔物は群れのような集団で動いており、親玉を倒すと群れの魔物は全て消える)


 等々。魔物は魔物でも誰かに作られたものっぽい奴らだな。


(まあとにかく、親玉を見つけて倒すのが大事だな)


 情報によれば、群れに一体だけ他と違う動きをする奴がいて、それが親玉なんだとか。


(凄い情報だな。一体誰が……)


 いや、とにかく今は奴らを倒すのが先だな。


「今、冒険者に非常招集をかけているのですが、この状況のせいか集まりが悪くて……」


 無理もない。突然現れた未知の魔物……パニックになるなという方が無理だろう。


「フェイ兄、あのスキルを使って敵を探しつつみんなに状況を伝えて」


「分かった」


 流石リィナだ。俺はすかさず〔白鯨の加護〕を発動し、幻をリィナに言われた通りの方向へ走らせた。


(これを使えば索敵しながら攻撃できるな……)


 最初に使った時には幻を二体出すのが精一杯だったのだが、聖獣メルヴィルの体調が回復してからは最大百体くらい出せるようになっている。といっても戦闘中だと他に意識を持っていかれるから四〜五体が精々だ。


(そう言えば新しいスキルも増えたんだよな)


 どうも貰ったスキルは聖獣メルヴィルと繋がっているらしく──


(っ! 魔物か!)


 魔物の一団だ。だが、幸い周りには誰もいない。これなら……


「〔サランストリーム〕!」


 これが聖獣メルヴィルから貰った二つ目のスキルだ。聖なる輝きを纏う水流が津波のように魔物達に襲いかかる!


 ザッパーン!


 魔物達は丸ごと呑まれ、跡形もなく消え去った。親玉が群れの中にいるなら全部まとめて倒してしまったらいい……というのはあまりに短絡的なのかも知れないが。


(っ! 今度はあっちか!)


 冒険者ギルドにいる幻と位置を入れ替えて、リィナとタイラーさんに報告してから倒しに行くか。





「はあはあはあ……」


 何体倒しただろう……リィナやタイラーさんには報告してるから二人なら知ってるかもしれないが……


(数が多すぎる……)


〔サランストリーム〕や〔クロスフラッシュ〕といった範囲攻撃が出来るスキルを中心に戦ってきたが、流石に息が切れてきた。


“マスター、一度休まれた方が……”


 あれからすぐにミアとレイアが合流してくれたが、物量が違い過ぎる。


“そうじゃ。急いては事を仕損じるというじゃろ。ほら、横になれ。妾の手練手管でリラックスさせてやるぞ”


 ネアまで……でも


(今も魔物に襲われている人達がいるんだ。休んでいる場合じゃ──)


 安全が確保されたのはまだオルタシュ全体のニ割に過ぎないのだ。


“しかし、冒険者の方々も続々と集まって来ています。ここで一息つかなくては最後まで保ちません”


“妾なら秒でギンギンにしてやれるぞ”


 だが……


「フェイ兄!」


 リィナか! 冒険者ギルドにいる幻と位置を入れ替えないと!


(幻が見たり聞いたりしたことを俺自身も知れるのは良いけど、精神的な疲労は中々なものがあるな……)


 だが、これはスキルの欠点じゃない。要は俺が幻を出しすぎていることが問題なんだ。


「ありがとう、戻ってきてくれて。まずは〔ピュアヒール〕!」


 体がスッと軽くなる。まあ、疲労感が無くなるわけじゃないので多用は禁物だが、今は有り難い。


「ありがとう、リィナ。で、どうしたんだ?」


 俺とリィナが話をしている間にミアが人化し、タイラーさんに魔物のいた場所や倒した数を報告してくれている。本当、みんなの協力があって何とかやれてるな……

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