第116話 共闘
(アバロン視点)
(あいつを倒せばもしかして……)
どうなるかは分からないが、やってみる価値はあ──
「何!? こいつら急に!」
「ぐわっ!」
今まで五分五分だった戦況が急に崩れ始めたな……いよいよ本気ってことか。
(なら、やっぱりさっき見つけた奴が本命か)
だが、さっきより動きが激しくなっている。俺一人であいつのところまで行くのはちょっときついな。
「アバロン兄、急に敵が! このままじゃ保たない!」
「おい、押されてるぞ! どーすんだよ!?」
ドレイクとイーサン……そうだ、こいつらと力を合わせれば!
「実は……」
俺が自分の考えを伝えると、二人の顔色はみるみる間に良くなっていった。
「分かった、アバロン兄に協力すればいいんだな! 何でも言ってくれ」
「ふんっ! あくまでも俺がメインだが……今回は働きに免じてその案に乗ってやってもいい」
言い方は気に入らないが……というよりつっこみどころが満載だが、まあ言うとおりに動くなら今はいい。
「おし! 他の奴らが全滅しないうちにやるぞ!」
「「おー!」」
動かなくなった奴らがあちこちに転がされている。マジでもうあまり時間はない。
「まずドレイク、突っ込め!」
「ア、アバロン兄!?」
「急げ! 時間がないぞ!」
「え? あ、あああ!」
半ば突き飛ばすようにドレイクを魔物の群れに突っ込ませる。すると……
(よし、道ができた!)
ドレイクのおかげで他の魔物の影に隠れていた例の魔物に接近しやすくなった!
「イーサン!」
「おい、俺はあんなのやらんぞ!」
人間砲弾のように魔物に突っ込んだドレイクは魔物を薙ぎ倒した後、周りから集まってきた奴らにタコ殴りにされているが……
(あいつのLvなら死にはしないだろ)
それにドレイクは悪運が強いしな。
「違う。剣を貸せ!」
「……仕方ないな」
イーサンはしぶりながら腰に帯びていた聖剣エクステリアを俺に渡す。こいつがこんなに素直に渡すのは俺が素手だからだ。
(まあ、予備のダガーくらいならあるけどな)
とにかく、これでこいつは用済みだ。
(待ってろよ、親玉め!)
駆け出そうとしたその時──
ドコドコドコ!
新たな一軍が押し寄せてきた!
(くそっ、気づかれたか。この大群どうす──)
ドカッ!
俺はさっきのドレイクのようにイーサンを新たに現れた魔物の集団に押し込んだ!
(これで親玉まで一直線だ!)
駆け出した背後で何かを訴えるイーサンの声が聞こえるが、それはどうでもいい。俺は親玉に接近して……
ズバン!
流石聖剣! 一刀両断だ!
「何だ? 魔物が……」
「き、消えた!?」
辺りの魔物達も消えていく。やっぱりさっき倒した奴が親玉だったんだな!
※
(イベル視点)
(我ながらいい考えだ)
水晶板に映るオルタシュはいい感じに混乱している。まあ、突然街中に魔物が現れれば当然だが。
(まあ、厳密には魔物じゃないが)
今、街を襲っているのは魔物じゃなくて幻体だ。特殊な魔道具を設置して俺の部下の幻体を作り、街を襲わせているのだ。
(数を出したから一体一体は大分弱くなったが、目論見は当たったな)
俺の部下だから相当強い……まあ、大王烏賊(クラーケン)くらいでも何とかなるレベルの強さだが、千体近く出したからな。駆け出し冒険者くらいの力しかないし、知能も低い。
(単純に周りの生き物を襲うくらいしか出来ないと知ったときは焦ったが……)
だが、俺のスキル、〈変異〉で百体程に指揮を取る力を与えたことで何とか統率した行動を取らせることが出来るようになった。
(代わりに指揮官がやられると部下もやられるようになったけどな)
俺の〈変異〉はスキルや生物、物の性質を変化させる力があるが、同時に俺が望んでいない変化も起こすこともあるのだ。
(これでオルタシュはおしまいだ。海路もまだ回復してないから助けも呼べない……勿論そんな時間を与えてやるつもりはないけどな)
唯一の懸念はあの忌々しいアリステッド男爵だが、奴も一個人。仲間がいてもこの物量では何も出来ないだろう。
(全く……海路を断つなんてまどろっこしい作戦よりこっちの方が早いじゃねーか)
まあ、いいさ。終わりよければなんとやら、だ。
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