第115話 円陣
(アバロン視点)
(全くなんなんだよ!)
口には出さないが、内心では現状に対する不平不満が沸きまくっている。何故なら……
(何で俺たちまで巻き込まれてるんだよ!)
イーサンの暴言……いや、妄言か? とにかく奴の言葉に怒った聖獣が放った津波に巻き込まれた俺達はオルタシュまで飛ばされた。
(ここで終わったなら良かったんだけどな……)
が、話はこれだけで終わらなかった。飛ばされた時に港が一部損壊してしまったのだ。
(それを補修しなきゃってのは分かる……だが、俺達は関係ないだろ!)
それでも黙って従っているのは、他に出来ることがないからだ。聖獣の怒りをかった(と思われている)俺達に出来る仕事はこれ以外にない。海路の守り神と崇められている聖獣はオルタシュでは絶対の存在なのだ。
「アバロン兄〜、俺、もう……」
ドレイクが弱音を吐く。今まで様々なトレーニングを受けてきたはずなのだが、こういう土木作業は勝手が違うらしく、初日からずっと足を引っ張っている。
「もうすぐ日が落ちる。そしたら終わりだ。頑張れ!」
何が悲しくてこいつを励まさなきゃならんのか……
「おい、そこ! 何をさぼってるんだ!」
ん? 誰だ……ってオイオイ!
「作業は遅れてるんだ! 休んでる暇なんてないぞ!」
俺とドレイクにそんな偉そうな口を叩いたのは何とこの顛末の主犯、イーサンだ!
(こいつ……誰のせいでこんな目に合ってると思ってるんだ!)
俺達だけじゃない。五番艦の船底でオールを漕いでいた冒険者は皆ここでイーサンの不始末のとばっちりを受けているのだ。
「汚名返上、名誉挽回のチャンス! 何とし──ぶぁがハッ!」
あ、思わず手が! まあ、こうなりゃ言いたいことを言ってやる!
「誰のせいでこうなってると思ってるんだ! お前こそしっかり働けよ!」
「なっ……貴っ様! この公認勇者イーサン様に逆らうというのか!」
やっちまった……
(あー、もう知らん! 後は運任せだ!)
とりあえずのしてしまおうと身構えたのだが……
「こいつの言うとおりだ! 何で偉そうにふんぞり返ってるんだよ、お前は!」
「ふざけんなよ、貴様! 誰のせいでこんな目にあってると思ってるんだ!」
「何が公認勇者だ! とっとと金払えよ!」
え……あれ?
ボカスカボカスカ──!
一斉に襲いかかる冒険者達になすすべなくボコられるイーサン。まあ、この数じゃ抵抗のしようがないな。
(せっかくだから俺も一発……)
握り締めた拳を振り下ろそうとしたその時──
(っ!?)
これは殺気か!
ボカッ!
目標をイーサンから殺気の主へと変更した俺の拳は綺麗にクリーンヒット! だが……
(んだあ? こいつは……)
俺の拳が当たったのは人間のような体にワニのような頭をつけた姿をした魔物……なんだろうか?
(……水で出来てるのか?)
その瞬間……
バシャッ!
奇妙な魔物は爆ぜて消えた。が……
「なんだ、こいつら!」
「何処から湧いて出てきやがった!?」
いつの間にか俺達はさっきと同じ水で出来た魔物に囲まれている!
「円陣を組め! 奴ら、数は多いが一撃入れればさっきみたいに消えるはずだ!」
「皆、さっきの見ただろ! アバロン兄に従うんだ!」
俺に続いてドレイクがそう叫ぶ。すると、流石低位と言えど冒険者だ。何とか円陣を組み始めたのだが……
(くそっ……こいつら弱いな)
俺なら難なく倒せるレベルでもD級〜E級のこいつらにとっては強敵だ。所々で倒れる奴らが出てきた。
「ドレイク! 傷ついた奴を治療しろ! イーサンは俺と一緒にやばい場所の援護だ!」
「分かったぜ、アバロン兄!」
「何で俺がお前に命令されなきゃいけないんだよ!」
イーサンは俺の指示に反発するため動きは今一つだが、崩れかけた場所へフォローに向かうことは出来る。
(まあ、なら俺は奴とは違うところにフォローに行けばいいか……)
ある程度組織だった動きになったおかげで戦いはある程度安定してきたのだが……
(おかしい……こいつらの動きは単調すぎるな)
単純に攻撃パターンが少ないというのもあるのだが、俺達がバラバラに対応しようが、協力しようがやり方が変わらないというのがな……
(ひょっとしたらこいつら……)
俺の考えが正しいなら、一匹だけ違う動きをしているやつがいるはずだ!
(それにはオーラを布のようやな薄く広く広げて……)
広げたオーラを通して周りの動きが頭に入ってくる。正直気持ちの良いものじゃないが……
(見つけた!)
他の魔物の影に隠れた一体が明らかに違う動きをしている! こいつだ!
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