第114話 レイアとミア

(レイア視点)


「悪いわね、付き合わせて」


 タイラーさんから聞いたオススメの喫茶店にに入るなり、そう謝るとミアは静かに首を振る。が、そんな訳はない。いくら街中とはいえ、聖剣が自らの持ち主と別行動なんて普通は有り得ない。


「奢るから好きなものを頼んで」

「ありがとうございます。では……」


 静かにメニューに目を通すミアは何処から見ても少女そのもの。正体は聖剣だと言っても誰も信じないだろうな。


(本当、綺麗な女の子……)


 同性から見ても魅力的な美貌はまさに神でなければ創造し得ないだろうとさえ思えてしまう。


(そういう意味ではリィナと姉妹というのは納得ね)


 私には理解できないのだが、ミアとリィナはお互いに姉妹ということになっていて、ミアはリィナを“リィナ姉様”と呼ぶ。まあ、文句を言うつもりはないけど、何が面白いのかしら……


「それで私にどんなご用ですか、レイア様」


 ちなみに私を様づけで呼ぶのは変わっていない。フェイの仲間だからという理由らしいけど……


「ミアに剣の気持ちって言うのを教えて欲しいの」


「剣の気持ち……ですか?」


「強くなるためには私一人の力では駄目。オスクリタの力も必要よ。だけど、私のオスクリタはあなたのように喋ることは出来ないし……」


 だが、本来ミアにそれを聞くのはズルい話だと思う。オスクリタは私の魔剣なんだから私が一人で対峙しなくてはいけないのだ。


(でも、私には力がいる……)


 久々に見たフェイの圧倒的な力。私はあの力に近づきたい。そうすればきっとアイツを倒すことが──


「レイア様はよく魔剣のことを理解されているように思いますが……オスクリタもレイア様の力になりたいと思っているようですし」


 ミアは私が腰に下げているオスクリタを一瞬見つめた後、そう言った。まさかミアは……


「ミア、オスクリタの考えていることが分かるの?」


「考えといっていいかは分かりません。魔剣には聖剣と違って自我がないので……」


「そ、そうね。そうだったわ」


 ちなみに聖剣に自我があるのは悪しき者をマスターに選ばないようにするためだっておじいちゃんが言ってたな。


「しかし、魔剣に限らず優れたものには作り手の想いが宿ります。そして、使い手次第でそれを感情と呼べるものまで発達することも」


 ……


「稀有な例です。まさかここまでハッキリした声が聞こえるなんて……レイア様はオスクリタのことをよく理解されていると思います」


「そう……ありがとう」


 ミアが本気で褒めてくれていることは分かるし、正直それは嬉しい。けど、私は少し落胆していた。


(これ以上何か出来ることはないってか……)


 いや、私はオスクリタに頼りすぎているのかもしれない。もっと自分で出来ることを探して……


「しかし……そうですね。オスクリタには一つ願いがあるようです」


 願い……? それって今足りないものってこと!?


「オスクリタの願いってなんなのかしら?」


 オスクリタはもはや私の相棒。願いがあると言うなら是非知りたい!


「オスクリタも貴方のことを知りたいようです」

 

 え?


「貴方のことを知り、より貴方の力になれるようになりたいとオスクリタは思っているようです」


 オスクリタが私のことを……


「気持ちはよく分かります。私ももっとマスターの役に立てるようになりたいと思ってますから」


 そうか、そうだったんだ。


(オスクリタも私のこと、相棒だと思ってくれてたんだ)


 それなら何から話したら良いだろうか。私に最初に剣術を教えてくれた義兄──その時はただの従兄弟だったけど──の話がいいかな? それとも……


「あの……レイア様、私からも一つお伺いしたいことが……」


「何かしら?」


 ミアが顔を赤くしながらバツが悪そうに俯いてる。何だが可愛い……顔立ちが芸術品みたいに整っているから余計に可愛い。


「あの……差し出がましいとは思うのですが、いえやっぱり良いです! 申し訳ございませんでした!」


 ん? どうしたのかしら


「ちょっ……だってそんなこと! ……分かりました」


 独り言のようなやり取りが一瞬あった後、ミアが顔を上げたけど……


(ん? なんか気配が……)


 何だろう。姿形はミアだけど、中身が違うというか……


“流石じゃの”


(!?)


 なっ……頭の中に声が!


“急に失礼した。が、誓って悪意はない。実は……”


 ネアと名乗った存在は自分の正体や今姿を表した理由などを語ったのだが……


(あの豹炎悪魔(フラウロス)絡みって時点で信用に値するはずがないんだけど、ミアのことを思ってというのは本当のようね)


“分かって貰えたのなら嬉しいのう”


 あの生真面目なミアは使命や規則に縛られる傾向がある。そのため、普段は詮索などしないように心がけているのだが、実はフェイのことが知りたくてたまらないらしいのだ。


「じゃからそなたから見たマスターの話をして欲しいのじゃ」


 言葉づかいは全然違うけど、不思議と違和感はないわね……ってどうしよう。


(ま、いっか)


 大した話をするわけじゃないしね。


「いいわよ。じゃあ、何処から話しましょうか……」

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