第113話 デート(後編)
(……ここ、兄妹でくる場所じゃないよな!?)
完全なミスチョイス! リィナだって困ってい──
ぴと……
さり気なく肩を寄せられ、甘えるように握られたリィナの手を俺は自然と握り返す。あれ、これって……
「迷子になりそうだから……」
「……確かにな」
オーナ通りならともかくここで迷子? いや、万が一迷子になったらってことだよな。
(とにかく早く抜けよう……)
※
(リィナ視点)
自然と手を重ねてしまった……でも、とってもいい気分。でも、だからこそ私の心には不安がよぎる。
(こんなに楽しくていいのかな……)
本当は今日はもっと力になれるようになるため、ギルドで調べ物をする予定だったんだけど……
(ほんとはまだまだ頑張らなきゃ……)
後悔してるわけじゃない。私にとってフェイ兄と二人で過ごす時間は何よりも大切なものだから。だけど……
(私、こんなに幸せでいいのかな……)
まだまだ力不足の私。そんな私にも優しくしてくれるフェイ兄のためにも努力しないと!
「あそこで休憩しようか」
フェイ兄が指差した先にはおしゃれな丸太小屋風のカフェがある。かわいいお店……
「うん!」
今日は何ていい日なんだろう!
※
(フェイ視点)
(しまった……失敗だったか)
危険な甘ったるさが漂うビーチから逃れようと思って目についた店に入ったのだが……
(外以上の甘々空間じゃないか!)
まずテーブルが全て二人がけ。更にその二人は向き合うのではなく、隣り合うように座るためのソファのような椅子が置かれている。
(この辺りにいる人がターゲットなんだから当たり前だよな……)
チラと見えた店名はタイラーさんのオススメスポットリストにあったもの。悪い店ではないのだろうが……
(というか、さっきのビーチといい、何で俺にこういう場所を勧めたんだ?)
タイラーさんに対する疑問さえ湧いてくるが……
「いいお店だね、フェイ兄!」
リィナ的にはオッケーらしい。何でだ?
(ま、まあリィナが良いなら良いか)
そのまま目のやり場に困る店内を進み、勧められるがままに座るとメニューを渡された。
(水上都市と言うだけあって、魚介類を使った料理が多いな)
ちなみにリーマスの方が種類は多い。リーマスは所謂交通の要衝と言うやつなので昔から色んな人の出入りがある分、食文化も豊かなのだ。
「フェイ兄、何にする?」
リィナの機嫌がすこぶるいいな。
(あ、二人きりって久しぶりだな)
放っておいたつもりはないが、リーマスを出てからあまり構ってやれなかったもんな。
「小魚のフリッターって言うのが気になるな」
魚に衣をつけて揚げたものらしい。揚げ物自体はリーマスにもあったが、あまり庶民的な食べ物ではなかった。こっちではどうかな。
「さっすがフェイ兄! じゃあ私は……」
楽しそうにメニューを見ながら悩むリィナの姿は俺の大好きなものの一つだ。
(やっぱりリィナはリィナだよな)
最近は不意にドキリとさせられることもあるが……俺は何に動揺してるんだろうか。
「私、この香草焼きっていう料理にしようかな。魚に香草って聞いたことないし」
「確かに! 良さそうだな」
「良かった! じゃあ、店員さん呼ぶね。すみません〜」
元気よく店員さんの声は不思議と周囲の雰囲気を壊さない。これもいつもの光景だ。
(ま、いっか。楽しいし)
※
(リィナ視点)
カフェを出た後、フェイ兄が連れて行ってくれたのは……
(す、凄い!)
街が一望出来る展望台だ。何でも灯台であると同時に魔物や高波の襲来を見張ったりするためのものでもあるらしい。
「……凄い眺めだな」
フェイ兄も同じこと思ってるんだ。ふふふ……
(いつまでもこんな時間が続くといいな……)
そうだ、私……忘れてた
(私、フェイ兄と一緒にいたいから色々頑張りたいんだ……)
お荷物になりたくない!
レイアさんやミアみたいにフェイ兄の役に立ちたい!
そんな焦りが強すぎて私は自分の大切な気持ちを見失ってしまってた。
(私はフェイ兄と一緒にいたい……だから、役に立ちたいんだ)
フェイ兄と一緒にいるためなら私は何だって出来る! よーし、パワー湧いてきたぞ! だけど……
(頑張るのは明日から!)
だって今は何物にも代えられないフェイ兄との時間なのだ。
「ねぇ、フェイ兄! あっちの方も見てみようよ!」
一緒に色んなものを見て、色んなことを感じたい。そのために私、強くなる!
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