第94話 急報
「フェイ、みんな! 大変よ!」
飲み物を飲みながら休憩していると、水着姿のジーナさんが走ってきた。
(前から見るとワンピース型だが、背中が大きく開いていて中々セクシーだな)
というか、前も胸元やあちらこちらがかなり深くカットされている。露出はリィナ達の中で一番少ないかもしれないが、凄く扇情的な水着だ。
「どうしたの? ジーナさん」
ただならぬ様子に皆の顔が引き締まる。いかん、俺も頭を切り換えないと!
「次に乗る予定だった定期船が出港出来なくなったの!」
「ええっ! じゃあ、ブリゲイド大陸には行けないの?」
レイアが残念そうな声を上げているのは、多分ブリゲイド大陸で強い敵と戦いたいからだろう。強い魔物がいると聞くからな、ブリゲイド大陸には。
ちなみにブリゲイド大陸というのはネアの仲間が向かった先だと思われる場所だ。俺達は今、船を乗り継いでそこへ向かっているのだ。
「ジーナさん、何で定期船が出られなくなったんですか?」
「出たからよ」
リィナの問いにジーナさんは厳かな声で答えた。
「海の悪魔、大王烏賊(クラーケン)がオルタシュの近海に出たの!」
なっ!
「大王烏賊(クラーケン)ってこんな場所に!?」
大王烏賊(クラーケン)はもっと北の深海に生息していると言われる魔物だ。体長は十メートルとも二十メートルとも言われており、遭ったが最後、海の藻屑になるしかないと言われている。
「私だって信じられないけど、目撃者はいるし、確実な情報よ」
「いや、ジーナさんを疑ったわけじゃないよ」
釈明しつつもまだ納得しきれない。大体、そんな魔物が現れる海ならば交易のために航海しようという話になるはずがないのだ。
「海の悪魔ネプトゥヌスの使いと言われるあの魔物がこんな人里の近くに……? この辺りは聖獣がいたはずなのに……ああっ、ネットワークが使えれば!」
ミアも俺同様、大王烏賊(クラーケン)の出現が信じられないようだ。気になるワードがいくつかあるが、今はそっとしておこう。
「とにかく遊んでる場合じゃないな。とりあえずギルドへ行こう」
※
【オルタシュ冒険者ギルド ギルド長室】
「おおっ……アリステッド男爵。わざわざすみません」
オルタシュの冒険者ギルド長が頭を下げてくれるが、ちょっと待ってくれ。話を聞きに来ただけだから!
「私達は情報を聞きに来ただけですから、お構いなく。旅の途中なので、大王烏賊(クラーケン)のことは他人事ではないのです」
エーデルローズことレイアがいつもとは違う涼やかな声でそう補足する。いつも思うが、俺よりこうした振る舞いがこなれてる。一体何でだ?
(普段からもう少し丁寧に振る舞えばいいのに)
ちなみに前にそんなことを言ったら“面倒”とバッサリ却下されたが。
「何だ? お前ら。仮装なんかして馬鹿じゃないのか!?」
室内のソファに座っている男が不機嫌そうにそう言うと、ギルド長は顔色を変えた。
「バッ──いますぐ謝罪しろ、イーサン! いくらお前が勇者でも言って良いことと悪いことがあるぞ!」
「あん? その妙な格好をした二人が何だっていうんだ?」
確かに……これは完っ全にジーナさんの趣味だしな。
(基本知的で真面目なのに、妙な趣味があるんだよな……)
実はジーナさんがロマンス小説好きなのは俺とリィナ、ジーナさんだけの秘密だ。
「あの豹炎悪魔(フラウロス)を倒した英雄中の英雄、アリステッド男爵とエーデルローズ殿だ! お前だって知ってるだろ!」
「ああ、その話は聞いたが……あれはリーマス総出の戦いだと聞いたぜ。そいつ一人でやったわけじゃないだろ?」
確かに……俺はその他大勢の一人だ。
「無礼なことを言うな! あのノルド氏に“アリステッド男爵とエーデルローズ殿がいなければ、豹炎悪魔(フラウロス)の復活は阻止できなかった”と言わせたお方だぞ」
「へえ〜 それは凄い。だがな……」
男は親指を立てて自分を指し……
「俺はノルドよりも強いぜ!」
ドヤ顔をするコイツはもしかしなくても残念な子かもしれないが、ノルドさんより強いのならば調子に乗っても仕方ないか。
(まあ、ハッタリって訳ではなさそうだしな……)
そんなことを考えていた俺だが、レイアは面白くなかったらしい。俺にしか分からない程度の変化だが、明らかに怒っている。
(オイオイ、喧嘩とかしないでくれよ……)
俺がそんなことを考えている間にも、二人のやりとりは続いている。
「だから、そう言う問題じゃないって言ってるだろ! 全くお前は……」
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