第93話 プライベートビーチ その二

(レイア視点)


「ねぇ……早くぅ」


 フェイが焦らすものだから、思わず甘えた声が出てしまった。でも、全部フェイが悪い。だって、私だって何か恥ずかしいんだから。


「じゃあ行くぞ、レイア」

「早くしてよ、フェイ……」


 だから、分からなかった。この時のフェイの声がいつもと違ったことに。


 ズンッ!


 フェイの指が触れた途端、私の全身に稲妻が走った!


「アッ!」


 反射的に声が出る。いつもならフェイはそこで一瞬手を止めてくれるのだが……


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! 


 え、ちょ──


「っ!っ!っ!」


 あまりにも激しい責めに声を出すことさえ出来ない。い、一体どうしたの、フェイ!?


「はぁ……はぁ……」 

「レイア……」


 息を荒げる私とは対照的にフェイの声は穏やかそのもの……


(いっ、一体どうしたの、フェイ)


 分からない。何で……


「実は今までやっていたのは三割程度の力なんだ」

 

「!!!」 


 マッサージの度にまるで意識が漂白されるような感覚だったのに……あれが三割!?


「……全力、出していいよな?」

「え……ちょっと、フェイ?」


 フェイの指が再び私の体に伸びる。そして……


「ァァァッ!」


 あまりの刺激に体が海老反りになる! こ、こんなの耐えられ──


 ズズンッ!


 あ、あああっ……


「さらにイクぞ!」


 嘘っ! まだ先があるの!?


 ズキューン!


「や、やめ──っ!」


 ズンッ! ズズズズンッ!


「や、ああああ!」


 こ、こんなの……有り得ない……


「まだ考える余裕があるのか……流石だな。だけど、俺はまだ全力じゃないぜ」


 や、やめ──


「覚悟しろ!」

「や、やめッ───!」

 




(フェイ視点)



 や、やってしまった……俺のツボ押しにレイアは悶絶。今は、ぐったりとパラソルの下で倒れてしまっていた。


(どうしよう……)


 うつ伏せになったレイアは起きる様子がない。うーん、参ったな。


「フェイ兄、おまたせ!」


 更にピンチ! ここにリィナがくるなんて……


(クロスデザインの水着……程よい肌見せ感がリィナの清楚な雰囲気によく似合ってる)!


 いつもなら見とれるところだが、今はそれよりも……


(一体何て説明すれば……)


 だが、救いの神は意外なところから現れた。


「申し訳ありません、マスター」


 しっかりと水着をつけ直したミアが戻ってきた! まだ少し様子がおかしいが……


「大変だったな、ミア。悪いが、レイアを見ててやってくれるか?」


「は、はいっ! マスター!」


 ミアが少しホッとした顔をしながら頷く。良かった……


「あれ? レイアさん、どうしたの?」

「いや、ちょっとはしゃぎすぎたみたいだ」


 はしゃぎすぎたのは俺かな……





(リィナ視点)


「いくぞ、リィナ!」


 フェイ兄の掬った海水が体にかかる。その瞬間、熱気で暑くなった体がスッとする。


「フェイ兄っ! 私もいくよ!」


 私は負けじと力を込めて海水を掬って……


 ゴウウウッ!


 私の掬った海水はまるで津波のようにフェイ兄に襲いかかった!


(しまった! 気をつけるように言われていたのに!)


 豹炎悪魔(フラウロス)戦とその後のレベリングで私のパラメーターは爆発的に伸びた。そのせいで、まだ力加減には慣れていないのだ。 


「ぐわっ!」


 フェイ兄が私の作った津波に吹き飛ばされる! そ、そんな!


「お兄ちゃん! しっかり!」


 砂浜に倒れたお兄ちゃんの元に駆け寄り、体を揺するが、反応がない。これって……


(とにかく呼吸を……)


 私は心臓マッサージをしようと手を組み……


「……ごめん。冗談だよ、リィナ」

「!?」


 お兄──いや、フェイ兄が申し訳なさそうな顔をしながら起き上がってきた。


「そこまで驚くとは思ってなくて……」


 そりゃ、心配するよ! だって、フェイ兄は私の──


「ごめんな、リィナ」


 優しい言葉と共にポンポンと頭を撫でられると殺気までの怒りがすっと何処かへ行ってしまう。そりゃそうだ、そんなことされたら何でも許しちゃうよ……


(もう、フェイ兄は……)


 あれ? 今までこんなことあったっけ? だって、フェイ兄はいつも私にひたすら優しくて……


(フェイ兄ってこんな風にからかったりするんだ……)


 知らなかった。私、フェイ兄のことを知ってるつもりだったけど、全然分かってなかった。


(でも、何だろ……何か嬉しい)


 嬉しい理由……きっとそれは“妹のリィナ”には見せなかった一面だからだ。


(もっと知りたい……フェイ兄のこと)


 今まで知らなかったフェイ兄の一面を知る度にどんどん好きになる。そして……


(私はそんな自分も好き……かな)


 ちょっとおかしな話だが、私はフェイ兄と一緒にいるときの自分が一番好きだ。見たことがないフェイ兄の一面と出会うのを心待ちにしている、そんな自分が好き。


「ちょっと休もうか、リィナ」

「うん」


 フェイ兄に連れられて、パラソルへと戻る道中、私達に手を振るレイアさんやミアの顔を見てふと思う。


(フェイ兄はどんな人に恋するのかな……)


 いつか私がそれを知るときは来るのだろうか。そして、その時、私は何を思うのだろうか……

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