第95話 公認勇者
「構いませんよ、ギルド長。彼は別におかしなことは言っていません。私の格好については様々な見方があるでしょうし、豹炎悪魔(フラウロス)戦では私がその他大勢であったのも事実です」
結局、時間が勿体なくて話に割って入ることにした俺は思ってることを言ったのだが……
「なっ! いや、そんな! 滅相もない!」
とギルド長は震え上がるし、
「ふんっ! 物分りのいい振りをしやがって……大物をきどってるんじゃねーぞ」
男──確かイーサンとか言ったか──は機嫌を悪くしたようだ。
(難しいな……)
穏便に収めようとしたつもりなんだけど……
「とりあえず話を聞かせてください。私達も時間がないのです」
エーデルローズことレイアは落ち着いた声色でそう言うが……
(これ、完っ全に怒ってるな)
普段のレイアなら既にグーパンが炸裂しているだろう。
「は、はい! では……」
ギルド長は遠慮がちに説明を始めた。この人は悪くないのにな……
「大王烏賊(クラーケン)の討伐計画は進んでるの?」
「A〜C級の冒険者を中心に声をかけています。とにかく人数が物を言うので……」
何でも冒険者の集団を専用の装備をつけたガレー船に乗せて戦うのだとか。遠距離攻撃が出来る冒険者の方が向いてるか?
“いえ、大王烏賊(クラーケン)の周囲では魔物が活性化するので船や仲間を魔物から守ることも大切です”
あ、ミアか。詳しいな。
“大王烏賊(クラーケン)は数々の聖剣が戦ってきた相手なので……”
なるほど。後でミアから話を聞いた方がいいかも知れないな。
「ふんっ! 大王烏賊(クラーケン)が何だ! この勇者イーサンが退治してくれる!」
「いくらなんでも一人では無理だ! だからあまり周りと揉めるな……」
ギルド長はそう言って諌めるが、イーサンに聞こえた様子はないな……
「面白そうね。私達も参加しましょ、アリステッド男爵!」
「ほ、本当ですか!?」
ギルド長が期待に顔を輝かせて俺に聞いてくる。まあ、大王烏賊(クラーケン)をどうにかしないと先に進めないんだから仕方ないかなあ。
「彼女もそう言っているので、ギルドの許可が下りるなら……」
「も、勿論でございます! 許可どころかこちらからお願いしたいです! 豹炎悪魔(フラウロス)討伐の英雄が参加して下さるなら大王烏賊(クラーケン)を倒したも同然!」
え、えらく持ち上げてくれるな!
「フンッ! いい気になるなよ!」
イーサンはイライラした声で怒鳴ると、蹴破るようにしてドアを開けて部屋を出ていった。
「すみません。いつもはあんな人間では──あ、いえ、もう少しましなのですが」
ううむ……微妙な言い回しだな。
「何かあったのでしょうか?」
「今まで勇者としてちやほやされていたのですが、豹炎悪魔(フラウロス)が討伐されたという話が広まると皆の関心はお二人に移ってしまい……」
「つまり、フ──アリステッド男爵に嫉妬していると?」
「はっきり申し上げれば……」
……聞かなきゃ良かった。
(何か気不味いな)
何か“仕方ない”と思える理由が出てきたら良かったんだが……これじゃ下手したら俺達が悪いみたいじゃないか。
(いや、俺達が悪いわけじゃないか)
例え俺達が原因だったとしても俺達が悪いわけじゃないな。
にしても、気まずい……
(何か他の話題はないかな……)
あ、そう言えば……
「そう言えば、“勇者”とは彼のクラスのことですか? そのような話は聞いたことがないのですが……」
勇者とは世界を守るためのいわゆるシステムだ。魔王の復活ともに世界中から一人だけ選ばれ、勇者というクラスを授かる。それが赤ん坊か成人か、はたまた老人かによって世界の運命が決まってしまう。
(確かに勇者が現れたとは聞いたことがないな)
勇者の登場は魔王の復活を意味するため、急速に広められる。特に冒険者であれば、ギルドから必ずと言っていいほど連絡があるはずだ。
「いえ……彼は公認勇者です」
「公認勇者……?」
ギルド長の説明によれば、公認勇者とは最近ガイザルック王国で出来た制度で、要は強い人に勇者の称号を与えるというものらしい。
「まあ、簡単に言えばガイザルック王国は力を誇示したいのでしょう。サンマーア王国には豹炎悪魔(フラウロス)を討伐した英雄がいますから、“こっちには勇者がいる”といってパワーバランスを取りたいのでしょう」
ふむ。政治的な意図ってやつか。
「そんなことしても実力そのものが変わるわけではないでしょうに……」
エーデルローズはかなりシビアな点をつく。口調は変えてもやはりレイアはレイアだな。
(にしても少しフォローしておくか)
アリステッド男爵とエーデルローズはかなり注目を集めてるから、何処からも中立の立場でいたほうがいいってルーカスさんからも助言されてるしな。
「ハッタリも大事なことは君も知ってるだろ、エーデルローズ。まあ、君が誤魔化しが嫌いなのは知ってるが」
ふぅ……なかなか疲れる役回りだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます