第91話 裏では……

(ルーカス視点)


(全く君って奴は……)


 通信が終わって感じたのは、“一本取られた”という思いだった。そうだ、その手があったのだ。


(豹炎悪魔(フラウロス)を倒した冒険者、その扱いに悩んでいたのだが……これでほぼ解決だな)


 実は、豹炎悪魔(フラウロス)を封じているということでリーマス及びサンマーア王国は周辺諸国からかなり配慮を受けていた。簡単に言えば、リーマスやサンマーア王国に害をなし、力を削いだせいで豹炎悪魔(フラウロス)が復活したりしたら困る……ということだ。

 

(だが、豹炎悪魔(フラウロス)を倒したことでその立場は入れ替わる……)


 豹炎悪魔(フラウロス)は間違いなく世界レベルの災害。それを鎮めるような冒険者がいたとすれば、それは世界最強。そんな冒険者を抱えてるリーマス及びサンマーア王国に下手なことをすれば、何をされるかは分からない。  


(だからこそ、アリステッド男爵を引き抜こうとしたり、その正体を探ろうとしたりする者をどうしようかと思っていたのだが……)


 いくらフェイ君でも搦め手から来られれば対処出来ない可能性がある。例えば、私やリィナの身に危害が及ぶ可能性があるとなれば……優しい彼のことだ。きっと相手の言いなりになってしまう。


(だが、サンクエトワール号の船長と懇意になったのなら大丈夫だ)


 実はサンクエトワール号の船長は名うての商人で、世界中の貴族と親交が深い。彼と付き合いのある冒険者に手を出そうとするものは早々いないだろう。何故ならあまりに付き合いが広すぎてどういう影響を来すのか分からないからだ。


(いくつか腹案もあったが……基本いらないだろうな)


 勿論これで完璧という訳ではないが、今はこれで十分だろう。


(それに君なら案外自分で解決してしまうかも知れないな)


 頼もしいが、ちょっとサポートしがいがないのが難点だな。まあ、贅沢な悩みだが……





(イビル視点)



「……以上がリーマスで起こったことの顛末です」


 何てことだ……


(まさか豹炎悪魔(フラウロス)が……)


 魔王復活のための大事なピースがまさかこんな場面でかけてしまうとは……


(ちょっと盤面をいじるだけのつもりだったんだがな……)


 確かアバロンとか言ったか。たまたま出会った冒険者を使ったちょっとしたイタズラだ。俺が本気を出した戦略じゃない。


(だがまあ、失敗は失敗か……)


 次に向けたちょっとした揺さぶり、そのはずだった。下手をすれば俺の立場どころか、カイザルック王国の立場が悪くなるからな。めんどくさい街だ、リーマスは。


(だが、更にめんどくさくなっちまったな)  


 豹炎悪魔(フラウロス)を倒したのが誰かが分かっていればやりようはあるのだが、あの“アリステッド男爵”ってなんだ? 明らかに偽名じゃねーか!


(まあ、目ぼしい冒険者の情報を探っていけばいずれ分かるだろうが……)


 ただ、高位の冒険者は貴族とつながりがある場合もあり、その場合は情報を集めることが難しいこともある。アリステッド男爵もこういったケースに該当する可能性が高いな。


(チッ……まぁいい。いざとなれば力ずくだ)


 いくら強いと言っても所詮人間。注意は必要だが、恐れるような相手じゃない。


(今はアレに集中するか)


 元々絡め手の一つとして用意していた水上都市オルタシュを介した海路の妨害の準備が終わった。準備していた当初とは意味合いが違うが、有効には違いない。


(俺が表に出れば一瞬で終わるものを……)


 だが、まだその時ではない。忌々しいが、こうしたチマチマした手を取るしかないのだ。



(アバロン視点)


 奇跡的に船を壊した責任を問われなかった俺達だが、サンクエトワール号が水上都市に着いた今でも船の上にいる。何故なら金がないからだ。


(そう言えば、路銀を渡されてなかったな)


 幸いにもあのジェイドとか言う魔族との取り決めでサンクエトワール号で働けば寝床と食事は提供して貰える。が……


(……出発前に稼がないとまた船底行きだ) 


 ついでに言えば課題も未達成となる。つま理、今は気合入れて掃除しないと行けないのだが……


「ふぅー、かったるいなぁ……アバロン兄、こっちは終わったぜ」


 ドレイクは愚痴をこぼしながらもやり遂げたようだ。まあ、雑用なんてやりなれ慣れないから仕方ない部分も──


(ん? 早すぎねぇか?)


 俺はまだ半分も終わってないぞ


「こんなの朝飯前だ。神殿騎士になるまでは散々やったからな!」


 そうなのか。こいつ意外と苦労してるんだな。


 と思ったのだが……


「こらっ! 何だこれは!」


 甲板長の激怒する声! 一体何だ!?


「全然出来てないじゃないな!」

「何だと! どこ見てるんだよ!」


 憤慨しているドレイクの仕事ぶりを確認すると……


(な、なんだこりゃ!)


 ドレイクが掃除をした場所はぐちゃぐちゃで下手をしたらする前の方が綺麗だったかもしれないレベル。


(いや、俺だって上手いわけじゃないが……)


 正直、例の力を使いこなすために一生懸命なだけで、掃除そのものについての技術も熱意もない。だが、こいつはそう言う次元を越えてるな……


「俺は三日で神殿の掃除をパスしたんだぞ! “お前が掃除できる場所はもうない”って!」


 ドレイクは何故か自信満々にそう言うが………それってもしかして、“任せられない”ってことじゃないのか? どうやったらポジティブに理解出来るんだ?


「そんなことは知らん! とにかくやり直──しても一緒か。おい、アバロン! お前の連れだろ。面倒を見てやれ!」


 は?


「すまねえな、アバロン兄。こいつら見る目がなくて、アバロンのレベルじゃないと理解出来ないみたいだ」


 おい、何自分は悪くないみたいなスタンスなんだ、お前は!


(だが、路銀はいるし……くそっ、やるしかないか)


 俺は広々と広がる甲板を見て、ため息をついた。

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