第90話 水上都市

(フェイ視点)



【定期船サンクエトワール号 : 船長室】


「いやー、何とお礼を申し上げたらよいか……」


 サンクエトワール号の船長がやたらと頭を下げるのは俺達がこの船の危機を防いだからだ。


(岩礁にぶつかって船体に開いた穴をリィナが防壁で塞ぎ、侵入した水は俺が〔アイテムボックス+〕で回収。そして、レイアが木材を錬成して補修。その間はミアがギフトで水をせき止める……確かにパーティー総出で働いたな)


 だが、まあ、俺達もこの船が沈んだら困るからやったことだ。別に感謝されるようなことじゃないが……


「危うく沈没するところでした。いくら感謝してもしきれません」


「いや、出来ることをしたまでですから」


 土下座をしようとする船長を止めながらそう言うのだが……


「別に良いわよ。したくてしたんだから」


 レイア、そりゃそうだが……


「いや、是非お礼をさせてください。でないと気が済みません!」


 ううむ、困ったな。


(確かに気持ちは分かるんだけど……)


 船が沈没すれば責任を問われるのは船長。これだけの船を沈没させてしまえば……まあ、職を失う程度では済まないだろうな。


(それを俺達が回避出来たのだから、まあ……)


 でも、本当にそんなに重く捉えて貰うようなもんではないのだ。なんて言ったらいいのかな……


「予定通り水上都市オルタシュに到着して頂けるだけで十分助かるのですが……」


 リィナの言う通りだ。ルーカスさん達と落ち合う約束があるので、予定通りなのは大助かりなのだ。


「しかし……あ、そうだ! 皆様は水上都市オルタシュは初めてですよね!?」


「あ、はい」「そうね」「ええ」「そうです」


 俺、レイア、リィナ、ミアが順にそう言うと、船長は嬉しそうに頷いた。


「なら、オルタシュについたら是非ウチへとお立ち寄り下さい。勿論、お迎えにあがりますから宿がお決まりなったらお教え頂ければ!」


「あっ……はい」


 思わず応じてしまったが、まあ仕方ないな。受け取らない方が面倒なことになりそうだし。





 その後の旅は順調そのもので、俺達は予定通り水上都市オルタシュに着いた俺達は港を出て冒険者ギルドに向かった。


「“水上都市”って言うけど、実際には島なのね」


 港に降り立つレイアはやや不満そうにそう呟く。どうやら文字通り水に浮かんだ都市をイメージしていたらしい。


「でも、ほら、本当に水の上に建物が立っている場所もありますよ」 


 リィナはそう言って海の上に足場を作って立てた建物を指す。確かにあれなら文字どおりだ。


「とにかく冒険者ギルドへ行こう。ルーカスさん達との約束があるからな」


 俺も色々と見て回りたい気持ちはあるが、定期連絡の時間が迫ってる。これを逃すと大変だからな。




【水上都市オルタシュ 冒険者ギルド】



「良かった。時間通りですね、フェイさん」

「ジーナさん!」

 

 冒険者ギルドで出迎えてくれたのはなんとジーナさんだった。


「ジーナさん、何でオルタシュに!?」


「何故って……私がいないと色々困るでしょ? だって、豹炎悪魔(フラウロス)の追跡クエストはあのアリステッド男爵に出ているものなんだから」


 うっ……そうだった。俺達がリーマスを出たのは表向きは商人の護衛クエストを受けたから。アリステッド男爵の秘密はリーマスのギルド長であるノルドさんとジーナさん、それにリィナのご両親だけなのだ。


「こんな遠くまで……ごめんね、ジーナさん」


「リィナ、いいのよ。私もあなた達に会えないと寂しいし。それに公費で旅行してるみたいなもんだしね」


 そう言うと、ジーナさんは俺達を奥の部屋へと案内してくれた。奥にはリーマスにいるルーカスさんと話が出来る特別な魔道具があるのだ。


「フェイくん、それにレイアさん、ミアちゃん、リィナ、お疲れ様だ」


「皆さん、お疲れはないですか?」


 鏡のような魔道具にルーカスさんとクラウディアさんが映り、二人の声が聞こえてくる。


「大丈夫です。大したアクシデントはなかったですし」


「まあ、結局沈没しなかったしね」


 おい、レイア! そんなこと言ったら……


「沈没? 一体どういうことだ?」


「お父さん、実は……」


 リィナが事情を説明すると、ルーカスさんは驚いた顔をした。


「そんなことが……ありがとう、フェイくん。サンクエトワールはリーマス、いやサンマーア王国にとっても大切な船だ。守ってくれてありがとう」


「いや、俺は出来ることをしただけで……それにみんなが手伝ってくれたおかげですから」


「お礼は船長さんにも言われたから大丈夫だよ、お父さん」


「それに船長さんからお礼を貰えることになってるし……何かは分からないけど」


 リィナとレイアがそう言うとルーカスさんは頭を上げた。


「お礼……ああ、多分あれだな」


「「「「あれ?」」」」


 俺を含めた四人が興味津々でルーカスさんの顔を見つめるが、ルーカスさんは意味ありげに微笑した。


「ゆっくり楽しんでくるといい。とりあえず、また三日後に連絡をくれないか」

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