第87話 アバロン、ライジング!
回避が終わると俺は直ぐにフェンリルの方を向く。すると……
(げ……なんだこれ!)
石畳は広範囲に渡って深々と切り裂かれてる……あいつ何気なく足を振っただけだよな?
(まさかリーマスの石畳を切り裂くなんて……)
実はリーマスの建造物は豹炎悪魔(フラウロス)とその配下の悪魔との戦闘を想定し、かなり丈夫に作られているのだ。それがこんな……
(流石S級……並じゃねーな)
俺は改めて気持ちを引き締めて向き合うが……
(ん? 何だあれ?)
何か赤い……あれは血か? 何であんな場所に?
(しかも、こっちまで続いて……)
あ、俺の血か
ドサッ!
俺の意思に反して膝が折れる。くそ、攻撃を食らっちまったのか……
(しかも、指一本動かせねぇ)
不味いな……思ったよりも傷が重い。
(だが、戦わないと……立ち上がらないと!)
戦ったところで負けるかもしれねえし、立ち上がったところで再び地面を転がるだけかもしれねえ。だが、そんなことはどうでも良いんだ!
(俺は強くなると決めたんだ!)
敵が強くても関係ねえ!
傷が深くても関係ねえ!
(戦わなきゃいけない時に戰わない奴が強くなれるはずがねえんだ!)
足に、手に、力を込める。そして──
「やめておけ」
不意に知らない男の声が背後からかけられる。誰だ? 全く気配を感じなかったぞ。
(しかも、この声……ジジイじゃないか)
しわがれた低い声から判断するにかなりの年齢だろう。
「闘志は買うが、傷が深すぎる。動けば死ぬぞ」
うっせーな。何でそんなことがお前に分かるんだよ!
俺は更に体に力を込める。すると、今度はジジイの手が俺の動きを止めた。
「死にたいのか」
ジジイは俺の目の前に抜き身の剣を突きつける。おい、こら! 何のつもりだ!
「どうしてもと言うなら斬ってやる。どちらか選べぶのじゃ」
ぐっ……勝手に出てきて、俺がこれ以上戦えば殺すというのかっ!
(確かにもう動かない方がいいが……)
多分、それが賢い選択なのだろう。フェンリルの興味は既に俺達にはなく、立ち去ろうとしている。じっとしていれば、生き残れる可能性は高い。
(……だが、ムカつくな)
横から出てきた奴に何かを強いられるなんて気に入らねえな!
「……誰かは知らんが、やれるもんならやってみろっ!」
俺が駆け出した途端……
ズバッ!
斬られた感触が背中に走る。が……
(痛くない!)
駆け出した俺はフェンリルに突っ込──
ズバババッ!
突然、斬撃が宙を飛び、フェンリルに向かう! 何だ、さっきの奴がやったのか?
(とにかくチャンスだ!)
不意をつかれて傷を負ったフェンリルは隙だらけ。俺はブルアクセルを放つが……
ガキンッ!
俺の攻撃はあっさりとフェンリルの爪で受け止められた! そして……
ブンッ!
フェンリルはそのまま軽く脚を振るう。すると、俺は凄い勢いで吹き飛ばされた!
バシッ
宙を飛んだ俺の体は地面に受け止められる前にさっきのジジイに受け止められた。
「ほう……面白いな。今のはブルアクセルの動き……だが、スキルは使ってないじゃないか」
何だこいつ……痛ッ!
「ム……骨折してるな。どれ……」
ザク!
「何しやが──」
あれ、痛くない。
「あ、説明しとらんかったか? これは傷を吸い、それを放出することで斬撃を飛ばす魔剣じゃよ」
は、何だと? そんな魔剣、聞いたことがないぞ!
「え? お前、まさかワシに斬られること覚悟であいつに向かっていったって言うのか?」
何だよ、何面白がってるんだよ、このジジイ……
「だったら何だよ」
「面白いな……死すら厭わぬ闘志に、スキルなしにスキルを放つという技……気に入った!」
は?
「フェンリルもどきが何故リーマスに出たのかと調べに来たが……それどころじゃないな」
「ガオォォ―ンッ!」
フェンリルが風のような速度で俺達の方へ突進してくる! 正直目で追いきれない速度だ!
(ここまでか……いや、まだ!)
俺が剣を構えようとした瞬間──
フンッ!
今まで聞いたことがないような軽い音……だが、それが鳴った後には……
(ま、真っ二つだと!?)
何と男は一撃でフェンリルを両断してしまったのだ!
(なんて術……いや、魔剣の力なのか!?)
そんなことを考えていると、急に……
ピキピキピキ……ガッシャーン!
男が握っていた魔剣に次々とヒビが入り、みるみるうちに砕け散った!
「まあ、よく持った方かの。能力も二回試せたし、良しとするか」
は? フェンリルを傷つけた魔剣が壊れたのに気にもしてないのか!?
「さて、行くぞ」
ん? 誰に話しかけてるんだ、このジジイ……ボケたか?
「お主、アバロンじゃろ。どうせ命令違反をしてここまできたんじゃろうが」
……
「ワシはこれから旅に出る。一緒に来れば鍛えてやるぞ」
鍛える……このジジイが俺を?
(いけ好かないジジイだが、実力は確かだな)
正直こんな得体のしれない人間と関わり合いを持ちたくはない。だが……
(強くなるには……)
そう。結論なんて初めから決まっているのだ。
「よろしくお願いします。えっと……」
そう言えば、まだこのジジイの名前も知らねえぞ……
「あ、すまん。名乗ってなかったの。わしはジェイド。種は魔族じゃ。よろしくな」
はぁ? 魔族だって!!!
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