第86話 志を貫く男、アバロン!

 大鬼(オーガ)の棍棒が轟音と共に地面に叩きつけられた!


ドッカーン!


 が、俺はギリギリで回避に成功!


(あぶっねー!)


 もし、俺がスキルを使っていたら、硬直時間の関係で絶対に回避出来なかった。が、今の俺が放ったブルアクセルはスキルじゃない。だから、クールタイムも発動後の硬直も存在しないのだ。


(後は癪だが……フェイの動きだな)


 何というか、独特の体捌きでちょこまか動くフェイが目障りだったせいで今もよく覚えている。付け焼き刃ではあるが、あの動きを意識することで半歩早く動けたことで回避が出来たのだ。


(さて、どうするか)


 今は一対一と言ってもいいが、大鬼(オーガ)には高い再生能力がある。ましてやこいつらは亜種。時間を与えると、深手を負った方が動けるようになる可能性が高いな。


(後から出てきた方を出来るだけ早く片付けないとな……)


 とは言っても簡単なことじゃない。だが、これしか方法がないな……


「ガアッ!」


 攻撃をかわされて苛立った大鬼(オーガ)亜種が再び棍棒を振り上げる! とにかく隙を見つけてブルアクセルを叩きこむしか……


 ヒュンッ!


 その時、聞き慣れた風切り音と共に大鬼(オーガ)亜種の頭に矢が刺さる。痛覚の鈍さのためか、深々と刺さったそれに気づかない大鬼(オーガ)亜種だが……


 バリバリバリバリッ!


 刺さった矢目がけて特大の雷が降り注ぐ。このコンボ、まさか……


「アバロン、生きてるか!?」

「!」


 やっぱりアーチとエスメラルダだ! そばにはバルザスがいるのも見える。


(あいつら何で……)


 だが、今は大鬼(オーガ)亜種が先だ。俺は雷撃のダメージでひるんだ大鬼(オーガ)亜種にブルアクセルを叩き込んだ!


「ガフッ!」


 血を吐きながら倒れる大鬼(オーガ)亜種から討伐の証となる片耳を剥いだ後、俺はかつてのパーティーメンバーと向き合った。


「お前ら何──」

「“何で”はこっちの台詞だ、アバロン!」


 おおっ、アーチがブチ切れてる! 


「ギルド長命令を破ったら死刑なんだぞ!? なのにお前!」


 いつにないキレ方だな、アーチは。


「しかも、一人で推定Bクラスの魔物と戦いに行くとか何考えてるの!」


 エスメラルダまで! ……まあ、こいつはいつもこうだが。


(いや、普通に巻き込みたくなかっただけなんだけどな……)


 こいつらには最後まで俺についてきてくれたことへの感謝もある。勝ち目のない戦いに連れて行こうとは思えないぜ。


「大丈夫。アバロンには作戦がある。いつもそうだった」


 え? あ、うん。戦闘以外では臆病なお前の前では特にそうアピールしてたけど、今回はいつもとは違うぞ?


「それは分かってるよ。だけど、それを聞く前に一言言いたくなるじゃないか」


「どうせ私達の行動もお見通しでしょうし……私達全員が助かる作戦があるのは当然よ」


 後先考えずにバッと出てきちまっただけど……どうしようかな。


(てゆうか、こいつらもギルド長命令無視したのか? それも俺頼みで?)


 やばい、頭が痛くなってきた……


「で、これから一体──」


 

 アーチの声をかき消すような咆哮……これは!?


 ドタドタッ!


 大鬼(オーガ)亜種の集団が壁の外から走ってくる!


「まだあんなに!?」

「……迎え討つぞ!」


 アーチ、エスメラルダ、バルザスが戦闘体勢をとるが、大鬼(オーガ)亜種の集団は俺達をスルーして街の方へ行ってしまった。


「信号弾だ、エスメラルダ。アーチとバルザスは前に注意だ!」


 なんてこった……俺は自分の思い違いをしてたみたいだな。


(壁を破ったのは大鬼(オーガ)亜種じゃないのか!)


 勿論、力的には不可能ではないだろうが、犯人は別にいるってことだ。


 ズンッ!


 大地が震えるような音と共に何かが近づく気配がする。このプレッシャーはやばいな。


ズンッ!


 大地が震えるような音と共に何かが近づく気配がする。このプレッシャーはやばいな。


「グッ! 何だ、何が出てくるんだ!?」「一体何なの!?」


「……!?」


 アーチ、エスメラルダ、バルザスもそれぞれ迫る敵に気づいたようだな。


「こいつを追い払えば俺達は英雄だ! 行くぞ!」


 皆を鼓舞しながら前へ出るとバルザスが続く。反対にアーチは下がり、エスメラルダはアーチと俺の中間に。よしよし、いつものフォーメーションだ!


(だが、相手は普通じゃない……)


 一体どんな魔物が出てくるのか……


「ガオォォ―ンッ!」


 大きな狼のような体、そしてそれを覆う白い体毛。魔物でありながら神々しささえ感じるこいつはまさか……


「まさか……」

「フェンリル……嘘でしょ?」

「強い……」


 士気が一気に萎み、皆が呆然とする。こいつの姿は噂に聞くS級の魔物、フェンリルに酷似していたからだ!


(えい、くそっ!)


 だが、相手が誰だろうと戦う前から諦めてはいられない!


「うおおっ!」


 悠然と歩くフェンリルに真正面から突っ込む! 負けないという決意、それを示──


 ブンッ!


 遅れて鳴る音で攻撃されたことを知る。だが、それより早く俺は既に全力で横っ飛びしている。


(S級相手に真正面から行ったりしないぜ!)


 攻撃されること──そしてそれを回避することが出来ない──なんて分かりきってるから初めから回避すればいいんだよ!

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