第80話 レイアの覚醒

〈レイア視点〉


「いや、結構危なかったぞ。レイアが勝っていてもおかしくなかった」


 それを聞いて私の心は舞い上がった!


「本当!?」


 やった! 

 

 いつも助けてもらってばかりの私だけど、次の冒険では少しは助けになれるかしら!


「ほ、本当だ。新しいスキルも応用が効きそうだし」  


「フフフ。見てなさい! 直ぐに“レイアが居なきゃ困る”とか言わせて見せるからね!」


 フフフ……腕が鳴るわ! フェイの言う通り、〔剣鬼解放〕で発動するオスクリタの魔力の使い方はまだまだ工夫の余地がある。工夫に工夫を重ねれば……


“だから、弱いの。私と違ってね”  


 その瞬間、過去の記憶が突如フラッシュバックした。


 目の前には血を流して倒れた義兄、そして血刀を携え、その体を睨みつけていたのは……

 

「……駄目ね、この程度では」

「えっ……」


 駄目だ。私、舞い上がってた。


 新しいクラスを得て強くなった。自分よりもはるかに強いフェイと戦う中で成長出来るのが嬉しかった。


 だけど、一緒にいるうちに勝つこと、強くなることが段々と二の次、三の次になっていった。


 代わりに胸の奥に生じてきたのは……何だろう。まだ、自分にも分からない何か。


(フェイに認められ、頼られること。いつしかそれが一番になって、強くなることは二の次になっていた……)


 勿論、復讐のことを忘れたわけじゃない。だけど……


「この程度じゃ……誰かに褒められたくらいで喜んでたんじゃ、アイツには……」

 

 誰一人信じずにたった独りで生きているアイツを倒すには私にも同じ力が必要。


(なのに私は……っ!)


 自分の甘さ、弱さに愕然とする。あの時、二度と同じ過ちは犯さないと誓ったはずなのに……


「力が欲しいのか」


 力……勿論よ。


「ええ、私は力が欲しいわ」


「……もし、どんな苦痛にも耐えられるというなら、無敵の力を与えてやれる」


 フェイ……いつもと口調が違う。


(……本気なんだ。つまり、これは真実)


 無敵の力って一体……いや、そんなことはどうでもいい!


「ええ、私はどんな苦痛にも耐えられるわ」

「鎧を脱いで後ろを向くんだ」


 一体何を……


(そう言えば、おじいちゃんから聞いたことがある。体にあるツボという場所をつくと生命力や魔力が爆発的に高まるって)


 ただ、効果を得るには正確な場所を強い力で押さなければいけない。もしかしたら、それがフェイの言う苦痛なの?


「いくぞ……」 


 フェイの指が布越しに当たるのを感じてドキリとする。そう言えば、フェイに触れられるのはこれで何回目だろう……


「いつでも、私は何にでも耐──っ!」


 ッ!!!


 これはっっっ!


(こ、声に出さないのがやっと……)


 痛みなら耐えられた。でも、この体の奥から湧いてくような疼きは……


(な、なんなの、これ……)


 気持ち悪いわけじゃない。いやむしろ……


(何だろう。でも、何か……何か、怖い)


 これを知ったら後戻り出来くなるような……


「次はこんなもんじゃないぞ」


 フェイの指が今度は素肌に触れる。場所はさっきより大分下───ッ!


「アアアッ!」


 疼きが、いえ何かの衝動が激流のように体の奥底から立ち上り、体中を暴れまわる!


(な、なんなの、これ)


 思ってもみなかった展開に私は思わず倒れ込む。けど……


「まだまだ続くぞ、レイア」


 フェイの指先が今度は……


「ダ、ダメッッッッ!」


 次はどこを……嘘でしょ!?


「イヤァァァッ!」


「まだまだ行くぞ」


「や、お願い、フェイ。やさし───アッ! アッ! アッ! アアアアアッ!」


「次は……」


 ま、まだなの……


(わ、私、もう……)


 …………


 ………………


 ………………………


 それからどのくらいたっただろう。フェイの施術は私が身動き一つ出来なくなるまで続いた。


「どうだ、レイア」

「……」


 どうって言われても……ん? 


(何だか体が軽い……)


 起き上がって腕を曲げたり、足を曲げたりすると……あれれ、さっきまでとは段違い!


「体が軽くなっただろ。下ばっかり向いとると体が固くなる。固くなると動きが悪くなる。動きが悪ければどんなスキルがあっても勝てないぞ」


 ………


「復讐したい理由は聞かないが……なんにせよ、強くなるには自分の全てを活かす必要がある。それには自分の強さを信じて理解してなきゃいけないんじゃないか」


 強さを信じる……理解する……


(確かに私、さっきまで自分の出来ないところ、足りないところばかり考えていた……)


 確かに足りないことを自覚することは大切だ。けど、それだけじゃ足りない。だって、どんな技でも自分が“いける!”と信じてなければ相手には通用しないもの。


「それでさっきの………」


「ああ。思いっきり笑うと頭真っ白になるだろ?」


 ………? 笑ってたのかな、私は。なんか違うような。


(まっ、細かいことは良いか。大事なことに気づけたし)


 それに何だか気持ちがいい。よくわからないけど、新しい自分になったような気がする!


「ありがとうね、フェイ」

「気にするな、仲間だろ」


 そう言うと、フェイは私の荷物を〔アイテムボックス+〕にしまい、“今日はこの辺で”と言って出口に向かう。  


(終わり……か)


 その時、さっきの衝動の残り火が私を動かし、フェイの背を追わせた。


「あ、あと一つお願いがあるんだけど」


「何だ?」


「……さっきの、またやってよね」



(フェイ視点)



 訓練所から出た時には、レイアはすっかりいつもの彼女に戻っていた。


「何はともあれ吹っ切れたみたいだな」


 実はレイアに異常にくすぐったくなるツボを押したのだ。昔、いくら修業しても自分だけ強くなれないことに落ち込み、絶望した時に押されたものだ。


“ホレ、体が軽くなったじゃろ。下ばっかり向いとると体が固くなる。固くなると動きがわるくなる。動きが悪ければどんなスキルがあってもゴブリン一匹さえ仕留められんぞ!”


 まあつまり、ほぼ師匠の受け売りだ。


(あれ……そう言えば何か忘れてたような)


 確か最後に注意されたな。なんだっけ?


(確か男と女で効き目が違うとか……)


 あれ? じゃあ、レイアはくすぐったかったわけじゃないのか???


(次会った時に確認しておくか)

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