第79話 レイアの模擬試合
【リーマス冒険者ギルド 地下訓練施設】
「はぁっ!」
ガキンッ!
レイアが勝負を決めるために放った袈裟斬りを俺はギリギリで受け止める。やれやれ、今のは危なかったぞ。
(だけど、これを弾けば……)
俺は力を込めたが、俺の意図はレイアに読まれていたらしく、レイアはびくともしない。
(俺は思ったよりも攻め方が単調になってるみたいだな)
いつの間にかクラスチェンジで獲た高いパラメーターにものを言わせた雑な戦い方になっていたらしい。
(師匠は良いものを作ってくれたよな……)
レベルとパラメーターを抑えて戦わなかったら分からなかったことだな。
フッ……
レイアが油断したタイミングで力を抜く。すると、俺の方に体重を預けていたレイアの体勢がわずかに崩れる。ここだ!
「っ!」
レイアが引いた先に更に力を加えることで体勢の崩れは更に大きくなる。すると……
(一旦引きたくなるよな)
瞬間、レイアの姿が縮む。だが、これは錯覚だ。レイアには剣聖にクラスチェンジした時に得たスキル、〔戦闘時移動速度アップ:特大〕があるため、Agiからは考えられないような動きが可能なのだ。
「流石ね。本来ならさっきで終わってたわ」
「いや、さっきは危なかったぞ。レイアも相当強くなったんだな」
俺の腕がなまっていたとはいえ、レイアが強くなっているのも確かなのだ。
「じゃあ、ここからはスキルも使うわよ。ここなら怪我はしないしね」
実は今、俺達は冒険者ギルドの地下にある訓練所にいる。ここでは各種の結界魔法、保護魔法により、人も施設もダメージ等々を受けずに模擬戦が出来る施設なのだ。
(高レベルのスキルを使って模擬戦や訓練をしたりしたら無茶苦茶になるもんな)
まあ、これからレイアの使うスキルなんてその典型だろう。
「〔剣鬼解放〕!」
来たっ、剣聖の固有スキルだ!
(ソードマスターが得意とする剣での連撃に加え、剣聖は剣に秘められた力を引き出す力を持つ……)
ジーナさんから聞いた話を聞きながら、魔剣オスクリタから立ち上る紫のオーラに視線を送る。
(今までは一割くらいしか引き出せなかったが、今なら三割程度まで引き出せるハズって言ってたな)
豹炎悪魔(フラウロス)戦を経て、俺達はかなりパワーアップしたからな。
ブウゥゥン!
紫のオーラは俺に向かって来るのではなく、レイアの近くに集まり、何かの形になっていく。あれは……
(ジャッカルか? 大分大きいが)
オーラが作り出したのは体長五〜六メートルはありそうなジャッカルの姿。さしずめ、ガーディアンと言ったところか。
「この子は……凄いわね! よし、フェイ、行くわよ!」
レイアがジャッカルと共に突進して──っと思うとジャッカルの姿はレイアのグリーブに吸い込まれていく。
シュンッ!
それと同時にレイアの速度が跳ね上がった!
「くっ!」
〔デュアシールドカウンター〕を狙っていたのだが、急加速によりタイミングが合わず、単に盾で防ぐのが精一杯。
(だが、次は……)
俺は剣で反撃しようとしたのだが……
ズンッ!
急に体が重く……これはオスクリタの重力か。
(あのジャッカルの仕業か)
見ると、レイアのグリーブから顔を出したジャッカルが俺の足を掴んでいる。このせいで体が重くなっているんだろう。
(相手を重くする力……接近戦では無敵じゃないか)
凄い力だ。だが……
フッ!
俺にかかっていた重力は瞬時に霧散した。予めセットしておいた〔オートアイテム〕が発動したのだ。
(やはり便利だな、〔オートアイテム〕)
俺は〔アイテムボックス+〕があるので使うアイテムを身につけてなくてもいいというのも便利なところだ。
ちなみに使ったのはこのアイテムだ。
◆◆◆
ディスペルポーション
魔法により生じたステータス異常を回復
する。毒や麻痺などの状態異常には効果が
ない。
◆◆◆
毒消しなどの状態異常を回復するアイテムよりも高価ではあるが、「アルケミスト」のクラスを持つレイアなら精製可能なアイテムだ。
(まあ、嫌がるから普段は〔アイテム複合〕で作っているけどな)
とにかく重力を無効化した俺は剣を振り下ろした!
ビッ!
「寸止めじゃなくて良いのに」
俺の剣はピタっとレイアの首筋を捉えている。まあ、実害はないと知っているんだが、これは完全に気分の問題だ。
「はあぁ、まだまだか。せっかくおじいちゃんに作って貰ったレベル封じの宝玉のおかげでフェイと戦えるようになったのに」
レベル封じの宝玉とはダンジョンコアを使って師匠が作ったアイテムで、一時的にレベルを下げる力がある。今、俺はレイアと近いパラメーターにするためにLv18相当にまで力を制限しているのだ。
「いや、結構危なかったぞ。レイアが勝っていてもおかしくなかった」
「本当!?」
嬉しそうにレイアが顔を寄せてくる。ち、近い……
「ほ、本当だ。新しいスキルも応用が効きそうだし」
「フフフ。見てなさい! 直ぐに“レイアが居なきゃ困る”とか言わせて見せるからね!」
レイアは楽しそうにはしゃぐ。が、その動きは一瞬で止まった。
「……駄目ね、この程度では」
「えっ……」
急にレイアの顔が張り詰めたものになっていく。一体どうしたんだ!?
「この程度じゃ……誰かに褒められたくらいで喜んでたんじゃ、アイツには……」
アイツ?
(ひょっとして、復讐の相手か?)
以前、強くなりたい理由を尋ねた時、レイアは復讐だと答えた。詳しいことはそれ以上聞いてはいないが……
(どんなヤツが相手なのかは分からないが……気負いすぎてては勝てる相手にも勝てないぞ)
それに復讐のことだけ考えても良いことはない。別に憎い相手のことを忘れろと言うつもりはないが……
(しかし、事情を知らない俺がそんなことを言ったところでなあ……)
何を言ったらいいか……
(そうだっ!)
口で言っても駄目なら体に言ってやろう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます