SS集:最終決戦後のエトセトラ

第78話 ミアとネアの休日

 朝、ウチではダイニングで恒例の儀式がある。


「リィナ姉様の料理、本当に美味しいです!」


「もう〜 ミアったら本当に可愛いんだから!」


 そう言うと、リィナはミアの肩を抱き、頭を撫でる。


(仲がいいなぁ)


 ミアも満更ではないようでしばらく触れ合うと二人は名残惜しそうに離れた。


(姉妹みたい……いや、何か違うな)


 俺に女兄弟はいないので実際には姉妹がどう言う感じなのかは分からない。分からないが、リィナとミアの関係は姉妹よりも濃密な気がする。そう、まるで──


「あ、お兄ちゃん。私、今日はヘーゼルさんのところへ寄ってくるからミアをおねがいね」


「分かった」


 ルーカスさん達はもう封印から開放されてはいるのだが、流石に体力は日常生活を送れるほほどには戻っていない。そのため、ヘーゼルさんのところで療養しているのだ。


(本当は挨拶に行きたいんだけど、まだリィナ以外は面会謝絶らしいしな……)


 まあ、順調に回復してると聞いてるし、焦る必要はないか。


(それに今すべきことをしなきゃな)


 俺が今しないといけないのはミアの回復だ。豹炎悪魔(フラウロス)戦の直後よりは大分回復したが、ミアはどうも強がる癖がある。無理をかけた分、休ませないと!


「夕食は適当に買ってくるよ。時間は気にせずゆっくりしてきていいぞ」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 そう言って浮かべる笑顔ときたら……本っ当、リィナの笑顔は最高だな!



 準備を整えたリィナを送り出した直後、俺は身構え、後ろに飛んだ!


「ちっ、駄目か。流石じゃな」


 俺の首筋辺りに巻き付けようとした両腕が空を切ったことに舌打ちするのはミアじゃない。ミアの中にいる存在、ネアだ。


(結局名前をつけてしまったな)


 豹炎悪魔(フラウロス)を分割して生まれた少女(?)の一人がネアだ。今はミアが取り込んでいるのだが、こうして隙をついて体を乗っ取り、やたらとくっつこうとしてくるのだ。


「早く体をミアに返せ! てか、服をちゃんと着ろ!」


 コイツが表に出てくると何故か服がはだけたりとか扇情的な格好になるのだ。


(いや、何故もくそもないか。ネアがはだけさせてるんだよな)


 思考がまとまらないのは余計なことに気をとられているからだろう。


 ミアの体はまだ未成熟とはいえ、既に少女のものではない。まるで咲きかけの蕾を思わせるそれは、触れたら壊れるような繊細さを感じさせるが故に逆に──


(……って何考えてるんだ、俺は!)


 危ない危ない。


「この娘、まだ幼いが、なかなか良い体をしている。胸だってほ───」


 間一髪! ネアが上着を脱ぎ捨てた瞬間、ミアが意識を取り戻した!


「も、申し訳ありません、マスター。気を緩めてしまいました」  


 慌てて掴んだ上着で胸元を隠すミアははずかしそうに赤らめた顔を伏せる。正直、滅茶苦茶可愛い。というか、俺の理性を粉砕させかねないレベルだ。


(体は折れそうなくらい華奢だが、胸はある。リィナほどじゃないが、確かに出るとこは出てるな……)


 上着で隠しきれてなかったり、布越しでも分かることはたくさん……


「あの……マスター、後ろを」

「ごっ、ゴメン!」


 ミアはリィナの教育によって一応女の子としての振る舞いを覚えたため、前みたいに一緒にお風呂に入ろうとしたりはしない。


 ……が、逆に以前はなかった恥じらいを備えたことでかえって攻撃力がましたというか、何というか。


「……もう大丈夫です」


 消え入りそうな声と共にゆっくりと振り返るとそこにはいつも通りの冷静沈着なミアがいた。


「お目汚しでした。申し訳ないありません、マスター」


 いやいや、お目汚しどころか眼福……だ、駄目だ! しっかりしろ、俺!





(ミア視点)


 ああ……しまった。やっぱり止めておけば良かった……


(私としたことが悪魔の甘言に耳を傾けるなんて……)


“失礼な! 誰が悪魔じゃ!”


 マスターが“ネア”と名付けたこの存在はこうして私に話しかけてくるが、実は肉体の主導権を奪うほどの力はない。にも関わらす、ネアが表に出てくることがあるのは……


“妾の言うとおりあのフェイという男はお前に釘付けだっただろうが”


(で、でも、こんな騙し討ちのようなやり方は……)


 私は聖剣。それは分かっている。

 でも、マスターの人柄やその強い意志を知ると何故かこう思ってしまうのだ。


 私に触れて欲しい……マスターと触れ合いたい……


 こんな浅ましい願いを持っているなんて知られたら軽蔑されるに決まっている。ただでさえ、様々な面倒をおかけしてしまっているのに……


“そんな心配は無用だと思うがの。それに女の体を持っている以上、惚れた男と触れ合いたいと思うのは当然じゃ”


(惚れた!?)


 そんな馬鹿な! マスターは私の主、つまり私は下僕であり、道具。そんなたいそれたことを考えるはずが……


“いやいや、惚れた相手でもないのに触れ合いたいとか思う方が問題じゃろ”


 くっ……何故かネアと話しているといつもペースを乱される。私はまだまだ未熟……


“いやいや。お前はもっと肩の力を抜いたほうがいいぞ” 


 力を抜く!?


“……まあ、よい。妾が表に出てフェイの気を引けばオヌシがどうこう思われる心配はないじゃろ”


(うっ……確かに。でも……)


 だけど、それは卑怯では……


(神が騙し討ちを禁じているわけでもなかろう? あるものは使う、それはオヌシのマスターのやり方じゃろうが)


 !!!


 そうだ……パラディンロードのスキルに頼るだけではなく、他のクラスのスキルも併用することであらゆる状況に対応するのがマスターの強さ。なら、私も……


“そうじゃ。オヌシも妾を使いこなせなくてはな”


 そうか……なるほど。


(私の今の使命……それはネアの知識や経験を取り込み、よりマスターのお役に立てるようになること……)


“そうじゃ! 妾をうまく利用するのじゃ。そうじゃな……次はこういうのはどうじゃ?”

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