第72話 豹炎悪魔(フラウロス)

「オオオァァァ!」


 アバロンが白目を向いて倒れると、赤黒いオーラがまるで生き物のように立ち上がった。


 バシッ!


 赤黒いオーラがアバロンに手をのばすが、白い光はオーラを弾き、接近を許さない。


“やはり再び取り付くことは出来ないか……”


 赤黒いオーラは悪魔の姿になり、俺達に向き直った。


“まあ良い。元々、意図せずして得た肉体だ。それに代わりはいくらでもある”


“マスター! 豹炎悪魔(フラウロス)は誰かに取り付くつもりです!”


(何!? さっきのアバロンみたいにか?)


 ヤバい。もし、リィナやレイアが取り憑かれたら……


“我らが力を貸そう……”


 この声……封印の……


 ブンッ!


 急に音が消えたかと思うと、辺りが光で溢れていく! その光量は凄まじく、視界が光で塗りつぶされているかのようだ!


「ガァァァッ! クソッ! 聖女めッ!」


 豹炎悪魔(フラウロス)を模した赤黒いオーラが苦しむ姿が目に入った時、俺は光で出来たリングのような場所にいた。


(移動した訳ではない……か)


 リングの外は今まで目にしてきた第五封印の中だ。よく見れば、端に気を失ったノルドさん達の姿もある。  


「お兄ちゃん!」「フェイ!」


 あ、リィナとレイアは外にいるな。


“豹炎悪魔(フラウロス)はこの結界の外には手出し出来ない”


 これは有り難いな。なら、俺は豹炎悪魔(フラウロス)との戦いに集中出来る。


「く、くそ! 聖女め……しかし、まあ良い。お前の体を乗っ取れば良いんだからな」


 余裕たっぷりに豹炎悪魔(フラウロス)は俺に向かって手を上げ、何かをしようとしたが、突然驚きの声を上げた。


「なっ……手応えがない!」


“悪魔よ、マスターの体は奪わせません!”


 ミアが守ってくれたのか……ってことは俺は豹炎悪魔(フラウロス)の乗っ取りを防ぎながら戦えるってことか。


「聖剣風情が……だが、こいつの生命オーラが減退すればお前の抵抗など無意味になるぞ」 

 

“っ!”


 なるほど、負けなければ良いんだな。


(ミア、コイツを倒して全部終わらせるぞ!)


“はい、マスター!”


 俺達は心を一つにして豹炎悪魔(フラウロス)に向き合う。だが、奴はそんな俺達を見て、馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「貴様らに本気の我の姿を見せてやろう!」


 言うが早いか、豹炎悪魔(フラウロス)が赤黒い光を放った!


“こ、この魔力……これほどとは!”


 ミアが相手の力に驚く場面は初めて見たかも。


“お兄ちゃん、今バフをかけるからね!”


“リィナ、結界外からの支援には決められた手順が必要だ。今教えよう……”


 こんなやり取りの間にも赤黒いオーラは膨張と変形を繰り返し、体長は十二〜三メートル程まで膨れ上がったのだが……


 フッ!

 

 不意にそれは体長ニ〜三メートルほどに凝縮した。


(これが豹炎悪魔(フラウロス)の真の姿……!)


 悪魔の証である角があること以外は二十代位の男に見える。しかも、その佇まいには威厳と高い品位が感じられ、さしずめ貴公子といった感じだ。


(無駄かも知れないが、〔超鑑定〕を使ってみるか)


 動きのない今しかチャンスはないしな……



◆◆◆


 豹炎悪魔(フラウロス)の精神体

 Lv????


◆◆◆


 うーん、やっぱり無理か。


(あれ、でもLvの桁が前と違うような……)


 リーマスで戦った時の奴とは別物だと考えた方がいいな。


「断りもなく、〔鑑定〕を使うなど無粋な奴よ」


 豹炎悪魔(フラウロス)は不機嫌そうに手を振った。


「知らないということは不安を掻き立てる、か。だが、知ろうとしたところで無駄なこと」


 まあ、Lv差がありすぎて〔鑑定〕が弾かれるしな。


「種としての格が違うのだからな!」


 豹炎悪魔(フラウロス)が俺に向かってくる! は、速い!


 ガツン! ドカーン! 


 辛うじて盾でガードはしたが、豹炎悪魔(フラウロス)の圧倒的なパワーに俺は結界の端まで吹き飛ばされた!


“マスター、来ます!”


 豹炎悪魔(フラウロス)は吹き飛ばした俺に追撃を加えるべく突っ込んでくる。これもまた凄まじいスピードだ!


(カウンターを狙うか?)


 一瞬そんな考えが頭をよぎるが、俺はすぐに結界の壁を蹴った。


 ボカーン!


 豹炎悪魔(フラウロス)の拳が結界の壁に当たり、まるで何かが爆発したかのような音が辺りに木霊する。


(おいおい、何だよ、この威力……)


 Str、agi共に俺より遥かに高いな。


「ほう……賢い、いや小賢しいな。壁際に追い込めればなぶり殺してやったものを」


 豹炎悪魔(フラウロス)は余裕の笑みを浮かべながら俺の方を向く。コイツ、まだ全力じゃないのか……


「いや、逃げ足の速さを褒めた方がいいか? 人間にしてはやるじゃないか」

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