第69話 新たな自分

「ラァ!」


 アバロンが赤黒いオーラを爆発させるように周囲へ放つ。虹色の防壁がそれを防ぐべく展開するが、ダメージを一部減衰するのが精一杯だった。


「ガハッ!」「グッ!」「ガフッ!」


 遠距離攻撃を行っていたノルドさんと『金獅子』『紅蜥蜴』が苦痛の声を上げて倒れる。大丈夫なのか?


“ごめん、お兄ちゃん。防ぎきれなくてしばらく立てないくらいのダメージになっちゃった”


(命に別状はないんだろ? 十分なサポートだよ)


 相手は豹炎悪魔(フラウロス)の力を持っているんだ。リィナが攻撃を防ぎきれなくても無理はない。


「レイア、俺が表に立つから裏を頼む」

「分かったわ」


 表と裏というのは師匠がよく使う言葉だ。表とは意識をひきつけてメインで戦うという意味で、裏とは隙を見て切り込むという意味だ。


 ブン!


 アバロンは再び俺に向かって拳を振るう。それを盾で受け止めて──


 ガキンッ!

 

 金属音だと!?


(なっ!)

 

 見るとアバロンの手には赤黒いオーラで出来た剣が握られている。


 スッ!


 気配を感じ右手の聖剣を走らせると首元に迫った短剣状のオーラを何とか防ぐことに成功した。


「アバロン、もう止めるんだ! 豹炎悪魔(フラウロス)がタダで力をくれる訳ないだろ!」


「その声! まさかフェイなのか? いや、そう言えば第二封印で見かけたな」


 アバロンはニヤリと笑みを浮かべた。


「お前なんか捻り潰してやる!」


 アバロンは素早く飛び退くと、左手の短剣を消して、オーラで出来た長剣を構えた。


(次はスキルで来るか……)


 アバロンのクラスは「バトルマスター」。あらゆる武器を使いこなすクラスで装備している武器に関係なく、覚えたスキルを放てるという特徴がある。


(あのオーラを武器に変えられるスキル……アバロンにぴったりだな)


 間合いに応じて瞬時に武器を変えられるなんて厄介極まりない!


(今は長剣……なら得意な〔ブルアクセル〕だな)


 今のアバロンは変幻自在の攻めが出来るとはいえ、だてに同じパーティだったんだから次の攻撃の予想くらい出来る。


 〔ブルアクセル〕は「バーバリアン」というクラスで覚えるスキル。通常は斧を装備して発動するのだが、長剣で放つと一撃必殺の威力に加えて長いリーチと凄まじい速度を持つ攻撃に化けるのだ。


(なら、ガードしてからカウンター気味に攻撃をしかけるか……)


 そう思って盾を構えていたのだが……


「〔邪炎連弾〕!」


 長剣から放たれたのは黒い炎弾。しかも、それが五発連続で俺に向かって飛んできた。


(アツッ!)

 

“大丈夫ですか、マスター!”


 ガードは出来るが、それでもかなり熱いし、衝撃も凄い。凄まじいスキルだ。


(それにしても……このスキルは中級悪魔(ミドルデーモン)が使ってきた奴と似てるな)


“はい。恐らく豹炎悪魔(フラウロス)のスキルです”


 〔ブルアクセル〕より豹炎悪魔(フラウロス)から貰ったスキルの方が強いから使ったのだろうか。まあ、確かに距離が詰められなかったのは予想外だけど……


「だが、距離があるなら……〔ホーリーライト〕!」

「ガハッ!」


 スキルで硬直した隙を狙って放った〔ホーリーライト〕がアバロンに直撃! 更に間髪入れずレイアの〔アシッドボム〕もアバロンに襲いかかる。アバロンは苦悶の声を上げたのだが……


「クハハハ! 今の俺には痛くも痒くもない!」


 血を流しながらそう吠えるアバロン。ダメージはあるようだが、さほど大きなダメージではないようだ。


「それにしてもフェイ。お前、何でそんな攻撃スキルを持ってるんだ? アイテム士のお前が」


「落ちた先の宝箱でクラスチェンジアイテムを見つけたんだよ」


 アバロンの問いに答えたのは少し時間が欲しかったからだ。


「そうかそれでここまで強くなったのか……まあ、お前は昔から悪運が強い奴だったからな」


 まあ、そうだな。


“悪魔憑き風情がマスターのことを侮辱するなんて……”


 いやいや、ミア! そんなマジで怒らなくても……


「じゃ、俺と同じだな。新しく生まれ変わった訳だ」


 ん? 生まれ変わった?


「以前の自分を捨て去って新たな自分になったんだろ?」


 別にアイテム士であることを捨てたつもりはないが……


「別に今もアイテム士のスキルは使ってるけど」


 大体街中ではクラスをアイテム士にしているしな。まあ、それは便利だからという理由ではないが。


「ハッ! まだ未練たらしくアイテム士を引きずってるのか! 運命が変わったって言うのに女々しい奴め」


 運命が変わった……


 まあ、周りは変わったが、俺のすることは何も変わっていない。今も昔も大切な人を守れるくらい強くなるだけだ。


「まあいい。なら教えてやるよ、俺は生まれ変わったってことをな!」

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