第68話 服従の盟約
<アバロン視点>
ドカドカドカ!
壁のようなものが俺の手足に突き立てられた衝撃で俺は意識を取り戻した。
(くっ……気を失っていたのか)
意識を取り戻したはいいが、俺の体は地面にはいつくばったまま。何とか手指を動かせる程度だ。
そのうちの一人が急に俺に視線を向けた。芝居で使うようなおかしな仮面をつけた冒険者だ。
(こいつ、どこかで……)
疲れ切った頭では何も思い出せない。が、その視線の意味するものはハッキリと分かった。
「何だ、その目は! この俺を憐れみやがって!」
そう。こいつは俺を憐れみ、情をかけようとしている。C級冒険者であるこのオレに!
「俺はC級冒険者のアバロンだぞ! それをどいつもこいつもカスのようにっ!」
傍からみれば、馬鹿なたわ言かも知れない。けど、俺にもプライドがあるんだ!
“君たちがちゃんと仕事が出来るように工夫がいるな……そうだ! 臆病風に吹かれた時のためにアレをプレゼントしよう”
確かイベルとか言ったか。俺達をはめたあの変装野郎の顔と言葉が脳裏に蘇る。くそっ、気分が悪い!
「くそ……気に入らねぇ! どいつもこいつも気に入らねぇ! 俺には出来ねぇと、俺にはやれねぇと決めつけて!」
封印で聞こえた声だってそうだ。“こんなことを平気で出来る人間じゃないはず”だとか、ピーチクパーチク言いやがって!
(許さねぇ! 俺のことを馬鹿にする奴は許さねぇ!)
ドクンッ!
その瞬間、まるで心臓を鷲掴みにされたような悪寒が全身に走った。
“クククッ! 無様だな。力がないくせに吠えたがる。まさしく貴様はちっぽけな人間だ”
何だと!
“だが、貴様のような愚か者は役に立つ……どうだ? 私の下僕になるなら力をやるぞ”
力だと?
“そうだ。お前を憐れむ全ての人間を叩き潰せる最強の力だ。どうだ、欲しくないか?”
得体の知れない相手からの取引なんて、冷静であれば受けるはずもない話だ。だが、この時の俺は冷静ではなかった。
(欲しくないかだと……そんなの決まってる!)
その瞬間、俺の体から赤黒いオーラが立ち上った!
(おおおっ! 漲(みなぎ)る……力が漲(みなぎ)ってくるぞ!!!)
両手両足を拘束していた忌々しい防壁が砕け散る。最早俺を押さえつけたり、阻んだり出来るものはなくなった!
「アアッハッハッ! これで俺は……俺は!」
※
<フェイ視点>
狂ったような咆哮と共にアバロンの体から赤黒いオーラが溢れ出す。一体何が起こってるんだ?
“あれは悪魔の力……まさか呪印には服従の盟約も含まれていたなんて……”
ミアが声を震わせる。こんなに驚いたミアは初めて見るな。
(服従の盟約?)
“悪魔に体を引き渡す契約です。勿論、悪魔に気に入られなくては発動することはありませんが……”
悪魔と契約……まさかアバロンが契約した相手って……
“お兄ちゃん! あの人から豹炎悪魔(フラウロス)の力を感じる。気をつけて!”
やっぱりアバロンが契約したのは豹炎──
ドッ!
地面を蹴る音が鳴ったと同時にアバロンが俺の間近に迫り、俺に向かって拳を突き出す。いくら豹炎悪魔(フラウロス)の力があっても拳なら……
ドッカーン!
油断していた俺はアバロンの一撃によってあっさりと吹き飛ばされた!
“お兄ちゃん!”
“マスター!”
いや、大丈夫。だが、まともなダメージを受けたのって久しぶりだな。
「俺達はアリステッド男爵とエーデルローズの援護だ!」
ノルドさんは遠距離攻撃用の魔道具を構えながら指示を飛ばす。それを受けて『金獅子』と『紅蜥蜴』も慌ただしく動き出した。
「……時間稼ぎにしかならないなんてっ!」
リィナは虹色の防壁を次々に出すが、アバロンの赤黒いオーラに次々と侵食されて破壊されてしまう。
が、アバロンも無視は出来ないらしく、注意を引き付けることには成功しているので、十分援護にはなっている。
(だが、相手は伝説の悪魔。俺が戦って勝てる相手なのか?)
俺は元々アイテム士。それがたまたまラッキーでパラメーターは高くなっただけで……
「行くわよ、アリステッド男爵!」
レイアが不敵な笑みを見せると、自然と勇気が湧いてくる。
(そうだ。俺は一人じゃないんだ)
予想外の状況に遭って視野が狭まっていたな。いや、パラディンロードになってパラメーターが上がってからずっとそうだったのかも。
(【黄昏の迷宮】の最深部で彷徨っていた時とは違う。俺には仲間がいるんだ)
ギルド長のノルドさんに『金獅子』と『紅蜥蜴』のメンバー。
勝ち気なレイアに凄まじい能力を誇る聖剣であるミア、それに今は信じられない神援護をしてくれるリィナもいる。
(やれる……いや、やってやる!)
リーマスに住む皆が送り出してくれたんだ! ここでやれなかったらウソだよな!
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