第67話 再びの邂逅
息を切らさぬ程度の速度で──全力で走ればついた先で何かあっても対応できないからだ──走ると、今まで見てきた石碑のようなものが見えてきた。
【第五封印 最終区画】
「あれはアバロンじゃないか?」
石碑のそばで倒れている人影を見るなり、ノルドさんがそう言って駆け出した。今までのような走り方でなく、正真正銘の全力だ。
ドカドカドカッ!
ノルドさんが着くより早く、虹色の防壁がアバロンを拘束する。流石リィナだ。
「ガハッ!」
どうやら衝撃でアバロンが意識を取り戻したらしいな。
「アバロン! てめえ!」
「この裏切り者!」
ノルドさんと一緒に奴に駆け寄った『金獅子』と『紅蜥蜴』のメンバーがアバロンに詰め寄る。
「待て。封印が先だ」
ノルドさんが封印に破損がないか確認している間、『金獅子』と『紅蜥蜴』のメンバーは何とか拘束を外そうと抗うアバロンに冷ややかな目を向けていた。
「よし、無事だ。補修はいずれするとして、とりあえずアバロンを外に運ぶか」
「待って下さい。呪印を解除してから運ぶことは出来ないですか?」
「何?」
俺の言葉に皆が意外そうな顔をした。
「いや、このまま連れて帰ると呪印のせいで痛みをかんじるんじゃ……」
「まあそれはそうだが、自業自得だろう。命に支障が出る訳ではないし……」
ノルドさんの言葉に『金獅子』と『紅蜥蜴』の面々も頷く。まあ、確かにそうなんだが……
“確か以前マスターの命を脅かした相手では? 万死に値するかと思いますが”
おおっ……ミアは過激だな。
“お兄ちゃんの優しさは素敵だと思うけど、正直そこまでしてあげなきゃいけない人だとは思わないけど……”
戸惑いながらもリィナも反対意見を言ってくる。まあ、普通はそうだよな。こんだけみんなに迷惑をかけた奴だもんな。
(確かに二人の言う通りなんだけど……何だか可愛そうでさ)
““……””
(確かにアバロンは俺を殺そうとしたけど、俺は生きてるし、何だったら前よりも良い感じに過ごせてる。レイアやミア、ジーナさん、それにリィナだっている。けど、コイツは何もかも失ってる)
アバロンは性格に難はあったが、実力は確かだ。だからこそ、雑な扱いをうけても何か学べることがないかとパーティに留まっていたのだ。
(コイツが自分のしたことに対する罰を受けるのは当然だと思うけど、封印から出るまで呪印の痛みに苦しむのを見過ごすのは罰とは違うような……)
俺にも明確な考えがある訳じゃない。ただ単に漠然と“何か違うんじゃないか”と思ってるだけなのだ。
“じゃあ、お兄ちゃん、アバロンさんには気絶して貰ったら良いんじゃないかな?”
(気絶?)
リィナはアバロンを拘束している虹色の防壁を指さす。……頭にぶつけて気絶させるってことか?
“ちょっと乱暴だけど、力加減はちゃんと出来ると思うし”
この防壁ってそんなに汎用性が高いの? 聖女のスキルは流石だな。
“いえ、普通は出来ません。リィナ姉様が上手過ぎるんです”
あ、そう……
「ノルドさん、アバロンさんを気絶させます。そうすれば痛みで暴れることもなく安全ですし」
「なるほどな、確かに」
ノルドさんは俺の発言を“暴れたら移送が厄介だから”という意図だったのだと思ったらしく、ようやく合点が言ったという表情を見せた。
(まっ、いいか)
俺の考えていたこととは違うけど、この際そんなことはどうでもいい。
(無駄な苦痛を味わわずに済んで良かったな、アバロン)
俺がそんなことを考えながらアバロンにそっと視線を送ると、奴は急に大声を上げた!
「何だ、その目は! この俺を憐れみやがって!」
え、何だって?
「俺はC級冒険者のアバロンだぞ! それをどいつもこいつもカスのようにっ!」
アバロンの体から赤黒いオーラが立ち上る。それは炎のように広がり、奴を拘束している虹色の防壁を侵食し始めた。
「うっ!」
「リィナ!?」
“リィナ姉様、大丈夫ですか?”
表情を歪ませるリィナに俺達が声をかけた瞬間、アバロンの四肢を拘束していた防壁は跡形もなく砕け散った!
「くそ……気に入らねぇ! どいつもこいつも気に入らねぇ! 俺には出来ねぇと、俺にはやれねぇと決めつけて!」
い、一体何の話だ? それにこのオーラは……
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