第62話 孤独と団結
<アバロン視点>
寒い………
俺はただ一人、惨めさと後悔を噛みしめながら歩いていた。
“リーマスの民は団結し、かならず豹炎悪魔(フラウロス)を倒す!”
分かってるよ……
“今は無理でも……一つ一つ力を積みかね、次の世代に繋ごう。その絆こそが我らの……”
分かってるって!
(くそっ…… 何でこんなことに)
だが、歩かなければ……前へ進まなければ、耐え難い苦痛を味わう羽目になる。
(それに、あの野郎……フェイに今の無様な姿を見られることだけはっ!)
正直、今俺を動かしているのはこの一念だけだった。情けないことに今、俺が一番怖いのは、かつて馬鹿にしていた相手から罵られることなのだ。
(……後のことはどうでもいい。今はとにかく前へ)
後先なんてどうでもいい。今、俺の頭にあるのはフェイから逃れることだけだ。
※
<フェイ視点>
【リーマス 封印前大広場】
「皆、集まってくれてありがとう!」
広場から溢れるくらい集まった住民を前に、ノルドさんは声を大きくする魔道具を口元に当てた。
「いよいよ、封印内に突入して豹炎悪魔(フラウロス)を解放しようとする馬鹿を取っ捕まえる時間になった!」
集まった住民からは喝采の声が上がる。そりゃそうだ。皆で守ってきた封印を破壊しようとする奴らに誰もが怒っているのだ。
「だが、今、封印内は下級悪魔(レッサーデーモン)で溢れている! 俺達が押しかけたところで一歩も進めない!」
湧き上がっていた声が急に止む。が、ノルドさんは再び声を張り上げた。
「だが、そんな俺達に力を貸してくれる人が現れた! A級冒険者、アリステッド男爵とエーデルローズだ!」
アリステッド男爵とエーデルローズの格好をした俺とレイアは事前の打ち合わせ通りわ壇上にいるノルドさんの両脇に立つ。気恥ずかしいが、必要なことらしい。
「アリステッド男爵とエーデルローズ……って偽名? 何で?」
「だが、この間の『蒼風の草原』での問題を解決してくれたらしいぞ」
「一体何者だ?」
がやがやと広場の皆が騒ぎ出す。すると、ノルドさんはそんな声をかき消すような大声を出した。
「彼らはリーマスの民として自ら封印に行くといってくれた。つまり、彼らは私達の仲間であり、同志だ!」
「「「!!!」」」
ざわついていた皆が一斉に息を呑んだ。
「アリステッド男爵とエーデルローズは封印を全力で守り、我らは彼らのことを全力でサポートする。我らは一丸となってリーマスを守り切るぞ!」
実は、リーマスでは住民間の結束感が他の街と比較にならないくらい強い。住民は五年前に豹炎悪魔(フラウロス)の封印を共に守った同志であり、今もその戦いは継続しているのだという連帯感があるからだ。
「リーマスのために戦ってくれるなら、アリステッド男爵とエーデルローズは仲間だ!」
「余計なことは考えず、アリステッド男爵とエーデルローズのサポートに徹しよう!」
何だが単純なように思えるかも知れないが、これはギルド長であるノルドさんへの信頼の厚さの影響が大きい。ノルドさんは今まで街を守ってきた実績があるので、“誰からは分からないが、ノルドさんが仲間だというなら間違いない”みたいな感じだ。
「全員で一致団結して平和な
「「「オゥゥッ!」」」
ノルドさんの激に広場にいた皆が歓声を上げる。もうこれでアリステッド男爵とエーデルローズの素性を疑ったり、調べようとする奴らは出て来ないだろう。
(今度は俺達がその信頼に応えないとな)
密かにそう思いつつ、俺は皆に手を振りながら封印に入る。アバロンを止め、封印を守らなくては!
「装備、アイテムのチェックを忘れるな!」
ノルドさんの声に『金獅子』と『紅蜥蜴』のメンバーが確認を始める。彼らは俺たちへの負担を減らすため、途中まで俺たちと同行してくれるのだ。
ちなみに、広場ではジーナさん達ギルド職員が志望する人に役割を割り振っている。
(ノルドさん達もいてくれるならリィナのレベリングも大丈夫かな)
多少なりともリィナのレベリングをしたかったのだが、時間があまりにもなかったので、リィナのレベルは1のまま。
だから、道中ノルドさん達はリィナとパーティを組みながら、下級悪魔(レッサーデーモン)相手にリィナのレベリングをして貰えることになったのだ。
勿論、俺達も加わって戦っても良いのだが、先のことを考えるとノルドさん達が戦った方が俺達の力を温存できるということらしい。
(“精々第一封印の途中までだけど”って謙遜してたけど……)
そんなことないと思うけど、まあ無理はして欲しくないな。
「準備はいいか?」
ノルドさんの言葉にエーデルローズの格好をしたレイアにリィナ、それに『金獅子』と『紅蜥蜴』の面々もしっかりと頷いた。いよいよ、出発だ。
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