第54話 目が覚めて
それからしばらくして俺達は冒険者ギルドの治療室で意識を取り戻した。
「意識を失っていたのは一〜ニ時間くらいね」
ジーナさんは俺の問いにそう答えてくれた。ちなみに、ミアは気を利かせたジーナさんが家にはこんでくれている。何でも俺達が封印の外に出る直前、ジーナさんとリィナには不思議な声の導きがあったらしいのだ。
「レイアさんはそのうち目覚めるだろうってヘーゼルさんが言ってたわ」
なら安心だな。
「で、今度は一体何があったの?」
ううむ。俺もよく分かってなんだけど、とりあえずあったことを説明してみるか。
「……信じられない」
俺の話を聞いたジーナさんは開口一番そう言うが、まあ無理はないよな。
「あっ、別にフェイが嘘ついてるとか思ってる訳じゃないからね! そうじゃなくて……」
「分かってる。封印に呼ばれたとかって聞いたら、俺だって信じられないよ」
「……それに封印を破壊しているのが『白銀の翼』ってことも」
アーチ、バルザス、エスメラルダは俺達同様外に出ているから今、封印の中にいるのはアバロンだけ。それでも奴は封印の破壊を続けるのだろうか。
「何で封印を破壊しようとするんだろう……」
「自分を殺そうとした相手の気持ちまで考えられるっていうのはフェイの良いところだけど……どんな理由があっても封印を破壊させるわけにはいかない」
俺を殺そうとした……ああ、【黄昏の迷宮】でのことか。なんか懐かしいな。
(俺のことはともかく……封印についてはジーナさんの言う通りだな)
例えどんな理由があってもリィナのいるリーマスを危険にさらさせる訳にはいかない。
「とにかく今は休んで。私の方で色々調べてみるから!」
「ありがとう、ジーナさん」
そうだ、今日は夕方から深夜まで当番だったな。
※
“勇者よ……”
気がつくと、俺は白い靄に覆われた場所に立っていた。
(あれ、俺は確か家に帰ってから……)
リィナに勧められて休んだはずなんだけど……
(てことはここは夢の中か!)
夢にしては妙な感じだが……
“まもなく第四封印が破られる。そうすれば、下級悪魔(レッサーデーモン)と共に豹炎悪魔(フラウロス)の力の一部が復活してしまう”
なっ……
“第四封印が破られれば残る封印は一つ……つまり、封印の力が本来の五分の一になってしまうからだ”
理屈は分かったが、一体どうすれば……今すぐ封印に入ってアバロンを止めればいいのか?
“そなたのおかげでリーマスに下級悪魔(レッサーデーモン)は現れることはなかったが、今、第一封印から第三封印は下級悪魔(レッサーデーモン)で溢れている”
げ……
“いくらそなたが奮戦しても二人では突破は難しい”
実は俺もレイアも複数の敵にダメージを与えるスキルはほとんどないし、バフやデバフで援護するようなスキルを持っていない。なので、下級悪魔(レッサーデーモン)が群れで現れるとちょっと面倒なことになる。
(まあ、ミアの力があればそれは解決するんだけど……)
だが、ミアの
(つまり、現実的なのは後衛から援護が出来る仲間を見つけるってことか)
下級悪魔(レッサーデーモン)が相手でも戦力に出来る力があって、なおかつ背中を預けられるくらい信頼できる相手……ちょっと思い当たらないな。
“%&#¥”
あれ、急にこえが聞き取りづらくなって……
(周りの靄(もや)が晴れていくぞ)
あ、もしかしてもうすぐ目が覚めるのか?
“お兄ちゃん、うなされてるけど大丈夫?”
リィナの声……心配してくれてるのか
“おおおっ……リィナ………”
その声には今までにない感情がこもっていた。慈しみ、思慕、仁愛、愛惜……とにかく色々な愛に溢れている。
(何だろう……聞き取れない)
また、声が響いた気がするが、今度は何も聞こえない。今度こそ目が覚めるらしい。
(一体何を伝えたいんだろう……)
顔が見えない相手から何故か必死の思いを感じ取り、俺は覚醒しようとする意識に抗う。
(何を俺に言いたいんだ、一体……)
よく分からないが、絶対聞かなきゃいけない言葉な気がする。駄目だ、まだ起きるわけには……
“リィナを……娘を頼……む”
耳元でその言葉を聞いた瞬間、俺は覚醒した。
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