第53話 再会の結末

<アバロン視点>


 く、苦しい……


 残留思念のもたらすイメージから思い出す自分の理想、そしてそれとかけ離れた自分の現状に対する自責の念や情けなさ……


 そして、それに耐えかねて手足を止めるたびに襲ってくる呪いによる痛み……


 何をしても痛い……


 何をしても苦しい……


 俺達は何とか第三封印最深部までたどり着いたものの、もうそれ以上進むことが出来ずにいた。


(くそっ……もうどうしようもねぇ)


 進めど止まれど状況が変わらない地獄の中で俺は行動を起こす気力を失いつつあった。


「$%&¥!」


 何だ? 誰か来たのか?


 俺はのろりと立ち上がる。行動を起こす気力を失いかけていた俺も誰かが近づいてきているともなれば、話は別だ。


「くそっ……誰だよ、お前! 邪魔する気か……」


 目の前には二人組の冒険者がいた。どちらも俺が見たこともないような凄い武器を持っている。


(くそっ……それに比べて俺はっ!)


 だが、そんな妬み嫉みはそいつらの顔を見た瞬間、吹き飛んだ!


「お前……まさかフェイなのか!?」


 だが、奴は俺の記憶にある姿とはだいぶ違う。くたびれた皮の装備は立派な金属製の鎧に変わっているし、手にした剣は神々しささえ感じる業物だ。それになにより……


(自信が目に溢れている……)


 目の前の男には今の俺と違い、瞳に確かな光が宿っている。それは、俺と一緒にいたときのフェイには欠片もなかったものだ。


(くそっ、一体何があったっていうんだよ……)


 俺の心は憤怒と憎悪で燃え上がった。


(何だ、その憐れむような目は!)


 何の役にも立たないアイテム士風情にどうしてこの俺様が憐れまれなきゃならないんだ!


(許さん、許さん、許さんぞ!!!)


 怒りと憎しみが獣じみた叫び声として迸(ほとばし)る! そして……





<フェイ視点>



「アバロン、しっかりしろ! 一体何があったんだよ!」


 俺が差し出した手をアバロンは煩そうに振り払うと凄い形相で睨みつけてきた。


(アバロンが封印を破壊した犯人? でも何で……)


 周りには他のみんな──アーチ、バルザス、エスメラルダ──が白目を剥いて倒れている。多分、限界を越えた苦痛のせいで失神したんだろう。


「とりあえず治療を……」


 だが、俺の使える回復魔法、〔ピュアヒール〕は外傷を治すためのもので、精神的なダメージは対象外だ。アバロンが楽になるかどうかは分からないが……


「フェイ、お前、俺を捕えに来たんだな」

「え?」


 え、どういう意味だ?


 ……あ、封印の話か。アバロン達が封印を壊しているなら確かに捕まえなきゃだけど……


「こんなことをしたのは何か事情があるんだろ? とりあえず治療を受けて──」


 リーマスに住むものが何もなく豹炎悪魔(フラウロス)を開放しようと考えるはずがない。裏には必ず黒幕がいるはずだ。


「ふざけんなっ! 何で俺がお前風情に同情されなきゃなんねぇんだ!」


 な、何だ? 何を怒ってるんだ、アバロン?


「お前、俺を舐めてるんだろう。俺はどうせ封印を壊せないって!」


 アバロンの言葉はうわ言に近いが、それと同時に奴は剣を封印へとかざしている。ウソだよな、アバロン?


「何を言ってるんだ、アバロン?」


 俺がそう言った瞬間、アバロンは封印へと剣を振り下ろした!


 パリィィィーーン


 封印は悲鳴のような破砕音を立てながら砕け散る。


「アーッハッハッハ! フェイ、俺には出来ないと思ったか? 馬鹿にすんじゃねぇ! 俺だって──」


 狂ったような嘲笑と共に赤黒い旋風が辺りに吹き狂う! そして地響きと共に大量の下級悪魔(レッサーデーモン)の気配が近づいてきた!


“マスター! 封印が崩れます!”


(下級悪魔(レッサーデーモン)が外に出ないように出来る?)


“はい! 私に魔力を!”


 俺は聖剣フェリドゥーンを地面に刺し、魔力を込めた!


“えっ……あっ………あああっ!”

 

 え? 強かった?


(レベルアップしたせいか……大丈夫か、ミア!)


“だ、大丈夫です……行きます!”


 その瞬間、白い光が辺りを焼いた!


「っっっ……! あれ、ミア! 大丈夫!?」


 光が収まって真っ先に動いたのはレイアだった。


「ミア、大丈夫か!?」


 ミアは聖剣モードが解け、レイアに抱き起こされている。しまった……無理をさせたか。


「も、申し訳ありません……こんな無様を晒してしまい……面目ありま……せん」


「無様なもんか。あんだけ戦った後に封印の補修をしたんだ。倒れて当然だ」


「も、申し訳──」


 俺の言葉に一瞬笑顔を浮かべたミアだったが、すぐに気を失ってしまった。


「どうする、フェイ?」


 レイアが尋ねたのは今後の進路だろう。既にアバロンの姿はない。恐らく第四封印に向かったであろうアバロンを追いかけなくてはならないが……


(ミアはともかく、『白銀の翼』の他メンバーまで連れて、アバロンを追いかけていくことは難しい)


 だが、ここはもう間もなく下級悪魔(レッサーデーモン)で溢れてしまうだろう。これだけの人数を連れて封印の外まで移動出来るのか……


“案ずるな、慈悲深き勇者よ”


 どこからともなく聞こえたその声と共に俺の視界は暗転しはじめた……

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