第51話 魔剣オスクリタ
「無理」
え、駄目なの?
「アリステッド男爵はリーマスの住民じゃないでしょ」
アリステッド男爵は外からふらっと来た冒険者だとみんなから思われている。だが、封印に入ってしまえば、アリステッド男爵がリーマスの冒険者の誰か──まあ、俺なのだが──が変装しているということがバレてしまうということだ。
「でも、今はリーマスに住んでるし、封印に入れてもおかしくないんじゃ……」
「本名じゃないんだから、石碑から名前が確認できないでしょ」
口調が仕事モードから変わっているのは話題のせいか、誰もいないからなのか……
ちなみにジーナさんが言った“石碑”とは、リーマスの住民の名が表示される魔道具だ。この魔道具は封印が“住民”と認める者の名が表示されるのだが、封印が何を持って“住民”と認めるのかはよく分かっていない。
「確かにアリステッド男爵がリーマスの住民の資格を得ていないと証明は出来ないけど、疑問に思う人はいると思う」
なるほど
「元々アリステッド男爵はでっちあげなんだから、疑問を持たれたら終わりなの。ボロなんていくらでもあるわ」
まあ、そこまでではないとは思うが、ジーナさんの言うことは分かる。
「それにいくらフェイでも下級悪魔(レッサーデーモン)がうじゃうじゃいる場所へ一人で行くなんて危険すぎる。そんなこと、絶対させられない!」
ジーナさんは俺のことを心配してくれてるんだ。
(レイアと行くつもりだって言っても一緒だよな)
俺が攻撃を引きつけて、レイアが攻撃して貰えれば、安全に戦える気もするけど……
「せめてもう一人後方支援が出来る仲間がいたら安定するんだけど」
なるほど、確かに。魔法による遠距離攻撃や回復魔法、バフやデバフをしてくれる仲間がいたらより安定するな。
(でも、あまり俺達のことを分かってない人に入ってもらっても混乱するな……)
難しいところだ
“私が全力なら下級悪魔(レッサーデーモン)が何百体いようと何の問題もないのですが……”
〔アイテムボックス+〕の中にいるミアの申し訳なさそうな顔が脳裏をよぎるが……な、何百体も相手にできちゃうのか?
(気にしないでくれ、ミア。それに本来そんなレベルの力を持っているって言う方が凄いよ)
アロンダイトの時も思ったけど、ミアってむちゃくちゃ凄い聖剣なんだな。
(他に何か手はないか……)
俺がそう考えたその時、急に甲高い音が鳴った!
「この音は……まさか!」
ジーナさんが慌てて、ギルド長であるノルドさんの執務室へ繋がる階段をかけあがる。まさか……
(マスターのお考えの通り、封印が破られたのでしょう。幾匹かの下級悪魔(レッサーデーモン)の気配がします)
くっ……第二封印まで
(だが、まずは下級悪魔(レッサーデーモン)だ。誰かが襲われる前に何とかしないと!)
とりあえず外に出ようとしたその時、急に視界が光で包まれた!
※
【第一封印 第一区画】
「ここは?」
気がついた時に俺が立っていたのはどこもかしこも水晶で出来た幻想的な回廊だった。
(話に聞いていた第一封印の内部が丁度こんな感じだが……)
え、まさか第一封印に入ってるのか!
(なんの手順も踏んでいないのに!?)
あり得ない……
“マスター!”
予想外の展開に呆気に取られていたせいだろう。俺は敵の奇襲に気づくのが遅れてしまった!
(一度距離を取って……)
だが、その必要はなかった。
ブンッ!
何故なら次の瞬間、敵は真っ二つになっていたからだ。
「良い切れ味ね。流石お爺ちゃん!」
レイアはニコニコしながら最近師匠から渡された魔剣をしまった。これを試したくて仕方がないと冒険者ランク認定会の前からうるさかったな……
いや、待て待て。それよりも!
「レイア、どうしてここに?」
「分からないわ。気がついたらここにいたの」
俺と同じパターンか……
「まあ、細かいことは良いじゃない。せっかく入れたんだから、封印を破ろうとする馬鹿をボコボコにしてやるわ!」
単純だが、一理あるな。
「よし、いくか!」
「その意気よ、フェイ!」
封印の中は一本道で分かれ道などはない。なので……
“マスター!”
(分かってる!)
また下級悪魔(レッサーデーモン)だ。今度は五体が固まってる。
「いたわね……どうする、フェイ?」
奴らはまだ俺達に気づいてない。それなら……
「先制攻撃しよう。数が減れば後が楽になる」
「なら私に任せて。いくわよ、魔剣オスクリタ!」
名を呼んで魔力を込めると、レイアの魔剣が黒いオーラを纏う。おおっ……凄い魔力だな。
ズンッ!
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