第50話 二人で……
<リィナ視点>
「今は緊急クエストが出ていて、俺はローテーションで警戒任務につくことになった」
!!!
お兄ちゃんも戦うの!?
「だから、夜遅くなったり、朝早く出ていったりすることもあるか──ってリィナ、どうした?」
「え?」
驚くお兄ちゃんを見て反射的に手を頬にやると……
(私、泣いてるの? 何で……)
自分でも訳が分からなかった。
泣いたりしたらお兄ちゃんに心配をかけちゃうのに……
お兄ちゃんは今リーマスを、私を守るために頑張ってるのに何で……
「……リィナ、どうした?」
お兄ちゃんが慰めるように頭をポンポンと叩いてくれる。ああ優しいな、お兄ちゃんは……
「な、何でもないの。ごめんなさい、お兄ちゃん……」
ポン ポン ポン
「大丈夫……心配かけてごめんなさい」
お兄ちゃんは今度は何も言わず背中を撫でてくれる。駄目だよ、そんなに優しくされたら我慢できなくなっちゃうよ……
(ダメっ……ちゃんと我慢しなくちゃ。私は笑顔でお兄ちゃんを送り出すんだ!)
いつもお兄ちゃんを送り出すん時のように……
最後にお父さん、お母さんを送り出した時のように……
「リィナ、溜め込んじゃ駄目だ」
!?
「リィナが悩んでいること、苦しんでいることを俺にも分けてくれ」
お兄ちゃ──
「うわああぁぁん───!」
私から出たのは言葉よりも涙だった。
「お兄ちゃんまでいなくなったら嫌──っ!」
今までせき止めていた思いが溢れ出す……
「お父さんもお母さんもいなくなった! 絶対、ぜったい帰って来るって約束してたのに!!!」
今まで封じてきた思い……
周りに迷惑をかけるからいっちゃ駄目だと心の奥底に封じていた思い……
私は……私は……
「私はもう一人になるのは嫌! 大切な人がいなくなって会えなくなっちゃうのは嫌なの!」
「リィナは一人になったりしない!」
お兄ちゃんの腕が私を力強く包んでくれる。その力強さは私にお兄ちゃんの言葉を素直に信じさせてくれるものだった。
「本当?」
「ああ、本当だ。何にでも誓ってやる」
もうっ、可笑しいなあ、お兄ちゃんは。
私がお兄ちゃんのことを疑うわけがないじゃない。
「じゃあ……クエストには出ない?」
「ああ」
え……本当?
「本当なの、お兄ちゃん。騒ぎが治まるまで一緒にいてくれるの?」
「ああ、勿論。リィナが望むなら、だけど」
そんなこと、お父さんやお母さんでも言ってくれなかった。私が寂しいって言っても、お父さんもお母さんもいつも“困っている人を放っておけないんだ”って言って……
「でも、俺が家にいたら救えるのはリィナだけだ」
!
「ジーナさんも、ヘーゼルさんもいなくなる」
そんな!
(でも確かにそうだ……)
お兄ちゃんがみんなではなく、私だけを守れば残るのは私とお兄ちゃんだけだ……
「リィナはそれでもいいか?」
「嫌! そんなの嫌!」
最初はお兄ちゃんだけだった。
でも、今は私の大切な人はリーマスにいっぱいいる。
(勿論、お兄ちゃんは特別だけど……)
でも、だからと言って他の人がいなくなっても良いなんてことは絶対にない。
「俺はリィナを守りたい。でも、それはリィナだけじゃなくリィナの大切な人、大切な場所も守れないと意味がない気がするんだ」
お兄ちゃん……
「俺は全てを守りたい。だから、リィナの力を俺に貸してくれないか?」
私の力……?
「俺、リィナが信じていてさえくれば、絶対何とかなると思うんだ。だから……」
私にも出来ることがある……
(そうだ……お兄ちゃんに任せ切りじゃなくて、私も一緒に頑張るんだ)
お父さん、お母さんの時は何も出来なかった。でも、今は違う。だから、きっと結果も違う!
「分かった! お兄ちゃん、私も頑張る!」
「ありがとう、リィナ」
お兄ちゃん……大したことは出来ないけど、私も頑張るからね!
※
<フェイ視点>
リィナと話をした次の日、俺はある決意を胸に秘めて冒険者ギルドに向かった。
(リィナがあんなに思い詰めていたなんて……)
今まで気がついてやれなかったことに罪悪感はあるし、ある意味ショックでもある。だが、今大切なのは打ち明けてくれたことに対する感謝と行動だろう。
(レイアはまあ予想通りオッケーだったし、後はジーナさんだけだな)
レイアは下級悪魔(レッサーデーモン)と戦うチャンスがないかと秘かに封印に入る準備をしていたくらいなのだ。
(ジーナさんは……あ、いた!)
ほとんど人がいない冒険者ギルドの中で俺はジーナさんを見つけた。
「フェイさん、どうしたんですか? 当番の時間にはまだ早いですよ」
「実は相談があって……」
よし、誰もいないな……
「アリステッド男爵って封印に入ったりしたら駄目かな?」
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