第49話 リィナと緊急クエスト
「あの……質問があるのですが」
「どうぞ」
ジーナさんがそう言うと声を出した冒険者は一礼した。
「あの……一体誰がこんなことをしでかしたんでしょうか。封印にはリーマスに住むものしか入れないはずですが、リーマスに住む者がこんなことを考えるはずがないと思うのですが……」
まさしくその通りだ。自分の住処を危険に晒すような行為をしてなんのメリットがあるのか……
「今は分からん。本当は犯人を追いかけて第二封印に入りたいところだが、俺達では下級悪魔(レッサーデーモン)だらけの第一封印を突破することが出来なかった」
え? それってまさか……
「待って下さい。もしかして、第一封印を解いた奴らはまだ健在で、今は第ニ封印を解こうとしているということですか?」
さっき質問した冒険者が思わずそう口走ると、ノルドさんは難しい顔をした。
(あり得る話だが、これはヤバいな)
つまり、第二封印が解かれるのも時間の問題ってわけか。
「今はその可能性が高いとしか言えないが……とりあえず封印内を調査するための応援要請を王都の冒険者ギルド本部に送っている」
ん? でも王都の冒険者じゃリーマスの住民じゃないから封印に入れないんじゃないか。
(何か切り札のようなものがあるのかも知れないな)
まあ、今はそれはどうでもいいか。
「とにかく今は第一封印の中に入り、状態を調査するための態勢を整える。Bランク、Aランクの冒険者は今夜は休んで不測の事態に備えろ。Cランク以下の冒険者にはこれからローテーションで警戒体制を敷いてもらう。ジーナ!」
ジーナさんは急に話を振られたはずだったが、まるで予定通りといった顔で話を引き取った。
「Cランクの冒険者をリーダーとして実力が偏らないように編成します。なるべくパーティは分断しないようにしますが、特殊な事情がある人は申し出てください!」
※
<リィナ視点>
朝、冒険者ギルドへ出かけたお兄ちゃんが帰って来たのは夜遅くだった。
「ただいま、リィナ。まだ起きていたのか」
「疲れているだろうと思って。今、スープを温めるね」
今、リーマスは下級悪魔(レッサーデーモン)の話で持ち切りだから、私も封印に何かあったらしいことは知っている。でも、帰ってきて早々にそんな話をお兄ちゃんにさせるわけにはいかない。
「お兄ちゃん、怪我とかない? ヘーゼルさんから打身に効く湿布とか色々貰ってきてるよ」
スープを前に置きながら、お兄ちゃんの顔を覗き込む。うん、いつも通りカッコイイ!
「ありがとう。心配かけてごめん、怪我はないよ」
そう言って微笑んでくれるお兄ちゃんの優しさが私の不安を拭ってくれる。
(まあ、無事だっていう知らせはジーナさんから聞いていたけど)
お兄ちゃんは回復魔法が使えるけど、魔法も万能じゃない。傷が塞がっても痛みや不快感が長く続くこともあるし。
「特に危険なこととかはなかったか?」
「ないよ、大丈夫」
「良かった」
安堵した顔を浮かべたお兄ちゃんの前にパンと豚肉のガーリック焼き、ポテトサラダが乗ったお皿を置く。今日はあまり手間のかかるものが作れなかったけど、お兄ちゃん喜んでくれるかな?
「うわー! 今日も美味しそうだな。頂きます!」
そう言うとお兄ちゃんは凄い勢いで食べ始めた。
(凄くお腹が減ってたんだな、お兄ちゃん)
私は自分が用意した夕食を食べるお兄ちゃんを見るのが大好きだ。理由は良く分からないけど……何だかお兄ちゃんと本当の家族になっていると感じるからかな?
「ふぅぅ、ご馳走さまでした。今日もとてもおいしかったよ、リィナ」
「もう……お兄ちゃんは大袈裟だなぁ」
照れ隠しでそんなことを言いながら私は後片付けを始める。これがいつもの幸せな時間だ。
「リィナ、聞いているかも知れないけど……」
お兄ちゃんがそんなふうに切り出したのは、私が片付けを終え、お茶を入れて座ってからだった。
「今日、リーマスに下級悪魔(レッサーデーモン)が現れた。どうも封印に何かあったらしい」
!
びっくりしたけど、ある程度予想はついていた。だって。下級悪魔(レッサーデーモン)が豹炎悪魔(フラウロス)の手下だってことはリーマスでは誰でも知っていることだ。
(封印……父さんと母さんが命をなげうって創り上げたあの封印……)
普段、あまり考えないようにはしているが、あの封印への私の思いはちょっと複雑だ。封印は平和のために必要だけど、同時に私から父さんと母さんを奪ったものでもあるわけで……
「今、ギルドでは今、調査隊を組織しているって聞いた」
調査……そうか、何が起こってるか分からないもんね。
(でも多分、いい状態ではないよね……)
でなければ、下級悪魔(レッサーデーモン)なんて出てくるはずがない。
「今は緊急クエストが出ていて、俺はローテーションで警戒任務につくことになった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます