第48話 第一封印
<アバロン視点>
【第一封印:第九区画】
くそっ、くそっ、くそっ!
(何で俺がこんなことを……っ!)
俺は目の前の陽炎のような幻を切り裂きながら毒づく。
(チッ、またか……)
幻は魔物ではなく、封印の礎となっている二人の冒険者の感情の残滓らしい。そして、進むためにそれを斬ればそいつらの感情が俺の中に入ってくるのだ。
(くそっ、分かってるって! 間違ったことをしてるのは!)
リーマスを守るために身を挺した冒険者の思いに触れる度に自らの愚かさを思い知らされる。だが、もう他にどうしようもないんだ。
(あのジジイの言う通りにしないと俺達は禁制品を生産·販売した犯罪者にされてしまう……)
実はあのジジイは裏でサンマーア王国を狙うガイザルック帝国の秘密組織の一員だったのだ。あの馬鹿面は実は魔法による偽装。奴らはリーマスにイシナラを持ち込んだ張本人で、街の力を削いでサンマーア王国侵攻の足掛りにしようと考えているらしい。
(で、それが失敗したから、俺達をはめて封印を解除させようって考えた訳だ……リーマスの封印にはリーマスに住む者しか入れないからな!)
くそったれ! 何でこうなった!
“この封印は皆の力で作り上げたもの……平和を願う祈りそのもの……”
分かってるよ! 俺だってあんた達に憧れて冒険者になったんだ!
“今はまだ、豹炎悪魔(フラウロス)は倒せない。だが、力を育てていけばいつかは必ず……”
そうだ、だから俺も強くなりたかったんだ。それはバルザスもエスメラルダもアーチも一緒だ!
“だが、それは今ではない。まだ時が必要だ……大丈夫。私達がそのための時間を稼ごう……”
そうだ、そうだが……
「……もう嫌っ! 私もう駄目!」
後ろにいたエスメラルダが悲鳴を上げた。エスメラルダは何かあるといつも最初に音を上げるため、いつも心の中で舌打ちをするのだが、今日ばかりは違う。何故なら……
「止めろ!
そう叫んでももう遅い。エスメラルダをジジイにかけられた呪いによる激しい痛みが襲う!
「嫌あああ!」
「早く言え、“必ずやり遂げる”って!」
ジジイは俺達がリーマスに向かう前にある呪いを俺達にかけた。それは俺達の誰かが封印の解除をしたくないと思った時に発動し、耐え難い痛みを与えるのだ。そして……
(早く……急いでくれ、エスメラルダ!)
だが、願いは叶わず、エスメラルダを襲っていた耐え難い痛みが俺にも……
(がぁぁぁっ! くそっ、何てたちが悪い呪いなんだ!)
俺達のうちの一人が諦めてしばらくたつと、今度はパーティ全員に痛みが伝染するのだ。
「やるわ、必ずやり遂げるから!」
エスメラルダは痛みに耐えかねて、泣きながら繰り返し叫ぶと痛みは止まった。
「……行くぞ」
言いたいことはあるが、そんな時間はない。封印は全部で五つあるのだ。
※
<フェイ視点>
【リーマス冒険者ギルド 緊急事態対策本部】
夕方になり、俺達、リーマスの冒険者は急遽用意された大きな部屋に呼び出された。前にはギルド長のノルドさんに『金獅子』『紅蜥蜴』の残存メンバー達だ。
「何者かが第一封印を解いたとみて間違いない」
開口一番出た言葉に一同が息を呑んだ。予想はしていたとはいえ、こうしてハッキリ言われるとね……
「今、第一封印の中は下級悪魔(レッサーデーモン)で一杯だった。街に出て来たのは封印空間にある穴を見つけて出て来た奴らだろう。穴は今は応急処置をして塞いであるが……」
封印へ入るにはリーマスに五つある石碑で決められた手順を踏む必要がある。条件を満たすと、豹炎悪魔(フラウロス)が封印された別次元へと移動するという仕組みだ。
ちなみに豹炎悪魔(フラウロス)が手下の下級悪魔(レッサーデーモン)と共に封印されている次元はダンジョンのようになっているらしい。そして、一階層目を第一封印、第ニ階層目を第二封印という
「恐らく第一の封印が破られたせいでこちらの次元に繋がる穴が空いたということだろう。この後、第二、第三と結界が破られれば更に穴が空き、下級悪魔(レッサーデーモン)がリーマスに現れる可能性が高い」
悪夢のような話だ。今回現れた下級悪魔(レッサーデーモン)だけでもかなりの被害が出ているのだ。しかも大多数は取り逃がしている。もはやリーマスだけの問題ではないだろう。
(だけど、本当に問題なのは下級悪魔(レッサーデーモン)じゃない……)
かつて冒険者を初めとしたサンマーア王国中の戦力が束になっても敵わなかった悪魔、豹炎悪魔(フラウロス)が封印から解かれたらリーマスどころか最早この世の終わりだ。
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