第47話 まさかの……

 その後、予備の魔道具で計測が続けられた後、俺達は冒険者ギルドの隣に併設されている訓練所へ移動した。


「次はこれです!」


 ジーナさんはボールに紐がついたような形をした魔道具を取り出した。


(あれは確か蹴るとAgiに応じて飛んでいく魔道具だったな)


 Strの次はAgiか……


「じゃあ、さっきと同じ順番で計測します!」


 ジーナさんの指示の元、順調に計測が進んでいたのだが……


「アンドリューさんは四十点!」


 おおっ……ここまでの最高得点だな。


 騒ぎ立る周りの冒険者の様子を見てアンドリューはガッツポーズを取っていると……


「次は俺だ! 絶対抜かしてやるからな!」


 わざわざアンドリューに宣言して計測に向かうのは日頃何かと対抗心を燃やしている冒険者だ。その成績は……


「アールさん、四十一点!」


「見たか、アンドリュー!」


 アンドリューは顔を真っ赤にして怒る中、周りの冒険者は更にはやし立てた。


「リーマス最速の冒険者はアールに決まりか?」


「いやいや、足自慢はまだまだいるぞ」


「よしっ……賭けるぞ! 誰か胴元をやれよ」


 いつの間にか賭け事が始まっている……まあ、冒険者なんてこんなものだ。ジーナさんも諦めた顔で淡々と計測を進めている。


「次はフェイか。おい、フェイの倍率は?」

「大穴だから2.0だ」


 すっげー倍率だな。


「まあ、運がついてるからな。ワンチャンあるかもしれないな」


「確かにな」


 ガヤガヤと好き勝手に言いながら金を賭けていく冒険者を見たレイアは何やら不満げな顔だ。


(不真面目とか思ってるのかな……)


 レイアは基本言いたい放題だが、ストイックなところもあるのでこういう奴らは嫌いなのかも。


「何よ、私が二番人気って! 何で一番じゃないのよ!」


 違った……


「それにフェイが大穴なんて……こいつらに私達の力を思い知らせてやらなくちゃ」


「オイオイ……」


 そんなことしたら騒ぎになるだろうが!


「次、三十番!」


 あ、レイアの番だ。


「やってやるわ!」


 やる気満々だな。まあ、レイアのパラメーターなら……


 ドッカーン!


 凄まじい轟音と共に魔道具が飛んでいく。誰よりも遠くに飛んだレイアの得点は……


「な、七十三点!」


「うおお!」


「嘘だろ!」


 さっきより騒ぎが大きいのは金をかけているからだ。


「今の私ならこんなものかな。あーあ、早く冒険者ランクを上げてレベルを上げに行きたいな」


 レイアは他の冒険者が魔道具を蹴るのをつまらなさそうにぼんやり見ている。それからも計測は続き……


「次、三十四番!」


 あ、俺だ。


(今度こそちゃんと加減しないとな)


 ちなみにジーナさんは魔道具を蹴ろうと準備する俺に“今度は大丈夫でしょうね!?”と視線で訴えてくる。また壊したらマジで怒られるな。


(もう弱すぎるくらいでいいか)


 下手に大きな数字を出したり、魔道具を壊したりするよりは多少低くても思いっきり手加減をした方がいい。計測はまだ続くし、少しずつ力を出していけばいいか。


(よしっ、行くぞ!)


 俺がかなり弱めに蹴ろうとしたその時……


 ザッ!


 突然聞き慣れない音を立てながら何かが上空から飛び降りてきた!


「はぁっ!」


 反射的に魔道具をその何か目がけて全力で蹴る! すると魔道具はその何かの体に深々と突き刺さった。


(危ない!)


 俺は圧倒的なAgiを生かし、何かが落ちて来る前にジーナさんを抱き抱えてその場を飛び退いた。


「ァァァ〜」


 地面に倒れているのは、赤黒い角と翼を持った異形の魔物。普段目にする魔物とは違いすぎるその魔物はリーマスに住む者なら誰でも知っていた。


「下級悪魔(レッサーデーモン)!」


「そんなまさか! 封印が解けるのはまだ先のはずだ!」


「もしかして封印に何かあったのか!?」


 答えを知っているからこそ俺達の動揺は大きかった。下級悪魔(レッサーデーモン)の出現はその王である豹炎悪魔(フラウロス)の復活を意味するからだ。


「み、皆さん、落ち着いて下さいっ! 今、情報収集に入ります!」


 ジーナさんがそう言うが早いか、ギルド長のノルドさんが走ってきた。


「やはり下級悪魔(レッサーデーモン)! 緊急クエストだ!」


 どよめきは既にあらかた収まっている。リーマスに住む者はいつかこういう日が来ると常に覚悟しているのだ。


「Bランク、Cランクのパーティはリーマスに現れた下級悪魔(レッサーデーモン)の捜索及び撃退だ。絶対に複数のパーティでかかれよ! 後、無理はするな」


「BランクとCランクのパーティは私のところに来て下さい! 持ち場を決めたいと思いますよ」


 ジーナさんの元に十四〜五人の冒険者が集まった。


「俺は動ける『金獅子』と『紅蜥蜴』のメンバーと共に封印の様子を見てくる。ここは頼んだぞ、ジーナ」


「分かりました!」


 そう言うとノルドさんは足早にその場を去った。


(リィナ……)


 ジーナさんの話を聞きながら俺はリィナの無事を祈った。

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