第46話 クリティカル
「ブレンダンさん、五十点!」
「おおっ! 最高得点じゃないか!」
「流石Bランク冒険者!」
「これぐらいで騒ぐなよ、まだ始まったばかりだ。ブフフンッ!」
……鼻息を荒いな。
「ブレンダンめ、目にもの見せてやる!」
「ガハハ! 吠えてろ!」
「なんだとぉっ!」
ジーナさんの持ってきた魔道具は殴った力に応じて得点が出るらしく、ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。
バンッ!
ブレンダンに絡んだ冒険者が渾身の力で魔道具を叩くが……得点は四十七点だ!
「くそっ! あと三点」
「ガハハ! 俺の勝ちだな!」
「うるさい! 三点高いくらいで威張るな!」
「何だとっ!」
オイオイ、こいつら喧嘩するつもりか……
周りは面白がってはやし立てる中、二人は腕を巻くってやる気満々だ。
「どいて。次、私の番だから」
そんな二人の間に入って魔道具の前に立ったのはレイアだ。
「女! 俺達の邪魔をするな……いや、やめてくれないか」
ブレンダンがだんだん弱気になっているのはレイアの美貌に気づいたからだ。
「そうだ、俺達は男の面子をかけて戦う訳だから……その」
相手もブレンダンと同じらしい。だが、レイアは全く聞き入れず拳を構えた。
「邪魔してるのはあんた達でしょ! さっさと退いて!」
レイアの勢いにブレンダン達がすごすごと引き下がる。楽しみを邪魔されたがっかり感も相まって、周囲からは“じゃじゃ馬が……”とか“顔は良いけどあの性格じゃな”などという声が聞こえてくる。
(気にしてるかな……)
いや、そんな性格じゃないな。きっと今は冒険者ランクを上げることしか頭にないだろう。
「ハッ!」
ガツンッ!
今まで聞いた音よりはるかに大きい!
(得点は……)
皆の目が魔道具に向いた。
「な、七十点!?」
「馬鹿な!」
「いや、でもあの音!」
騒ぐ冒険者には目もくれず、レイアは俺のところへ戻ってきた。
「上々ね。まあ、フェイには敵わないと思うけど」
こらっ! そんなこと口にするな! 周りの奴がびっくりして俺を見てるじゃないか。
「次……三十四番」
あ、俺の番か。
(やり過ぎたらヤバいな……)
本気でやればぶっちぎりの成績になってしまい、目立つことこの上ない。理想はブレンダンより少し低いくらいの点数だが……
「フェイ、頑張れよ〜」
「大丈夫だ、お前には運がついてる!」
顔見知りがそう声をかけてくるのは、力加減に悩む俺が緊張しているように見えたからだろう。
ちなみに“運がついてる”と言うのは、俺が【黄昏の迷宮】から生きて生還したことを指している。まあ、クラスアップする前の俺であれば、【黄昏の迷宮】から生きて生還するなんて幸運以外の何者でもないしな。
(よし、やるか)
レイアの得点を考えると、大体六分の一から七分の一くらいの力でやるのが良さそうだ。
「ハッ!」
バシンっ!
何だよこの音! かなり弱めに打ったんだけどな……
「何だよ、今のは!?」
「さっきの女より凄い音がしたぞ」
「いやでも、フェイだぞ。そんな力があるはずがない」
皆は騒ぎながら魔道具に注目する。ううう……変な数字は出ないでくれよ……
「得点は……って?」
この魔道具は殴られた後、立ち上がって胸の辺りに数字が表示されるはずなのだが、魔道具は立ち上がらないし、数字も表示されない。
「え? まさか、今の一撃で壊れちゃった?」
驚きのあまりジーナさんの口調が素に戻るが、誰も気づかない。
(や、やばい。やり過ぎた)
あ、そうだ!
「いや〜、運良くクリティカルが出たな!」
そう、これは運だ! 運なんだ!
「クリティカル? ああ、なるほど」
「それでこの威力か……」
ポツリポツリとそんな声が漏れ出してくる。良かった。何とかなるか……?
「……フェイさん、クリティカルならバトルで出た方が良いじゃないですか。むしろ、運が悪いですよ」
ジーナさん、ナイスフォロー!
あ、でも少し怒ってる?
「本当だな! 残念だったな、フェイ!」
「あはは、こりゃ弁償だぞ」
ジーナさんのおかげで何とか雰囲気が元に戻ってきた。ふぅ……やれやれ
「しかし、いくらクリティカルでもあんな威力でるか?」
「この種の計測機が壊れるのを見たことがないんだが……」
ギクッ!
だが、こんなふうに首を傾げているのはほんの一部の冒険者だけだ。
(良かった。なんとか誤魔化せそうだな)
そんなことを思っていると不意にレイアが耳元で囁いた。
「力加減失敗しただけでしょ、フェイ」
しっ! 誰かに聞かれたらどうするんだ、レイア!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます