第44話 お尋ね者

「あの……アロンダイト様。教えて頂きたいことがあるのですが?」


 シノンか? えらく畏まった声だな。


“よかろう”


「お話に出ていたあの……『魔王』ですが、復活が近づいているのでしょうか?」


 その場にいた全員がシノンの言葉に息を呑んだ。


“フム。ヤツの復活がいつになるのかは分からんが、まだまだ先の話だ。まあ、余計なことをしなければ三十年は大丈夫だろう”


 ふぅ、良かった。


 ……でもないか。結局生きてる間に魔王が復活するってことだからな。


「ご助言ありがとうございました、アロンダイト様」


 シノンは丁寧に頭を下げた。神官騎士にとって、神の力を宿す聖剣はいくら敬意を払っても払い足りないような存在なんだろうな。


“フェリドゥーン様、他にお役に立てることはありませんか?”


「あとは……」


 そんな感じでミアの質問が終わった後、俺はミアの力で再び結界を張った。今度はミアも妙な意地を張らなかったのであっさりと済んだ。


(やっぱりミアを回復させるには神聖オズワルド共和国に行く方が良いみたいだな)


 ミアがアロンダイトに聞いていたのは力を取り戻すためには有効なアイテムの在処だ。


(ほとんどは神聖オズワルド共和国のどこそこ、だもんな)


 神聖オズワルド共和国か……遠いからリィナを一人にする時間が長くなるな……


「フェイ、次は神聖オズワルド共和国に行くの?」


 レイアは単純にそう聞いてくるが……うーん。


「是非おいで下さい! 新たなパラディンにお受け取りいただきたい品や儀式が山のようにあります!」


 あれ、シノンの態度がえらく変わっている……ミアが凄い聖剣だと分かったからかな?


(それに今、サラッと“儀式”って言ったよな……)


 強くはなりたい、最強を目指したい気持ちはあるが、目立ったり、堅苦しかったりするのは嫌だな。


「とりあえず冒険者ランクを上げないと。今回みたいな裏ワザばかり使うわけにも行かないしな」


「え〜! 早くLvを上げて強くなりたいのに!」


 神聖オズワルド共和国は神官騎士団を始めとした猛者が集まることで有名だ。レイアには絶好の修業場に見えるんだろうな。


「しかし、ミア様の回復が最優先ではないでしょうか。私と共に神聖オズワルド共和国へ来ていただければ全力でミア様の回復に協力させて頂きます」


 確かにそこを言われると迷うが……


「マスター、神聖オズワルド共和国に行かなければ回復できない訳ではありません」

 

 え?


「アロンダイト様に色々聞いていたのはいつか必要になった場合に備えてです。今、私はネットワークが使えないので何かあっても他の聖剣に尋ねることが出来ないので……」


 そうなのか? でも……


「まあ、とりあえずはリーマスへ帰りましょ。どうするにしろ、帰らなきゃいけないんだし」


「そうだな、確かに」 


 まあ、帰ってゆっくり考えよう。





<アバロン視点>



 命からがら逃げ出した俺達は再びあの田舎の村に戻っていた。


(くそっ! あのジジイ何のつもりだ!)


 ここへ戻ってきたのは勿論、あのジジイをとっちめるためだ。俺達をこんな目に合わせてタダで済むと思うなよ!


「おっ、冒険者の兄ちゃん達、早かったのぅ!」


 いたっ! こいつ、よくノコノコと俺に声をかけられたな!


「おい、ジジイ! あの薬草、何のつもりだ!」


 アーチがキレた!


(アーチがキレたのを見るのは初めてだな)


 慎重な反面、引っ込み思案なアーチは基本押しが弱い。だから、人に文句を言ったりするのが苦手なんだが……


(でもまあ、当然だな。このジジイのせいで俺達はお尋ね者なんだからな!)


 とにかくこいつを突き出せば何とかなるはずだ!


「そうよ、禁制品の薬草なんて聞いてないわよ!」

「あんたのせいで俺達はお尋ね者。許さない」


 エスメラルダもバルザスも怒り心頭といった様子だ。二人共ついさっきまで倒れ込んでいたが、怒りのおかげで立ち上がれたみたいだ!


「ふおっほっほ! おかしなことを言うのう」


 は?

 

 何言ってるんだ、このジジイ……


「お主ら元々お尋ね者じゃろ? 何を今更……」


 ブンッ!


 バルザスが剣を抜く。ヤバい、殺すのは不味いぞ、バルザス!


 が、俺が制止するよりも早くそれは起こった。


 バシンッ!


 聞いたことがないような音と共にバルザスの巨体が明後日の方向へ飛んでいく。


(馬鹿な! こんな枯れ木のようなジジイにこんな力があるわけがない!)


 だが、エスメラルダとアーチの動きは止まらない。二人はそのままジジイに飛びかかり、バルザスと同じように叩き伏せられた。


「貴様は一体……」


 俺から漏れたつぶやきを聞くと、ジジイはにんまりと笑みを浮かべた。

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