第42話 全力

 レイアにミアからの話を聞かせている間、シノンは驚いたり、バツが悪そうだったりと忙しそうだった。

 

 特に“Mpや魔力などのステータスが足りない”の辺りでは床に転がっているドレイクを睨むような場面さえあった。


「それにしても使えもしない魔道具を渡すなんて馬鹿な話ね」


「いえ、多分……」


 シノンはまたもやドレイクを睨む。一体どうしたんだ?


「ドレイクは上にステータスを申告する際に実際より高い値を報告しているのでしょう」


 何でも神聖オズワルド共和国の神官騎士達は効率に修業的やクラスアップをするために定期的にステータスを報告しているのだが、見栄を張って実際より高く報告する者もいるのだとか。


(報告していたステータスならシノンと二人で魔道具を使えたはずってことか)


 なるほど、つまり……


「仕事が進まないのはドレイクのせい、ってことね」

「その通りです」


 まあ、そりゃ睨みたくもなるよな……


「どうされますか、マスター?」


 関係ないと言えば関係ない話だが、また神聖オズワルド共和国まで帰らなきゃならないシノンは可哀想だなあ……


「ミアはどう思う?」


「マスターの御心のままに。ただ、あえて希望を言わせていただくならこの修道院の聖剣に会ってみたいと思います」


 なるほど。まあ、聖剣同士話でもあるのかも知れないな。


「シノン、良かったら魔道具を俺に貸してくれないか? 結界が解けないかやってみるよ」


「むしろ私からお願いしたいですが……って、まさか一人でやるつもりなんですか!?」


 シノンの頭には俺がドレイクの代役になるという発想しかなかったようだ。


(まあ、シノンとドレイクを足したステータスより俺の方が高いとか普通は思わないよな)


 恐らく二人はLv60台。冒険者で言えばBランクってところか。


「ミア、これに魔力を込めればいいのか?」


 俺はシノンから渡されたボールのような魔道具をミアに見せる。すると、ミアはこっくりと頷いた。


(魔力……どれくらい込めればいいのかな?)


 まあ、少しずつ込めていった方がいいよな。まさか壊れることはないと思うけど……


 ピシッ!


 え? ちょっと待て!


 ピシピシピシッ!


 おい、まだほんの僅かしか魔力を込めてないのに!


 パリィーン!!!


 ま、魔道具が!


「そんな! 魔力の込めすぎで魔道具が壊れるなんて!」


 シノンが驚いた顔をするが……いやいや、それより結界はどうしよう。


「問題ありません。魔道具に刻まれた術式は私が記憶しました」


 ほっ……


「マスター、手を」

「分かった」


 よし、ミアに魔力を送れば良いんだな。 


(でもさっきみたいなことにならないように気をつけないと……)


 ミアに何かあったらシャレにならないからな


“お気遣いただかなくても大丈夫です、マスター”


 え、ミア?


“マスターの全力に耐えられないなら私はマスターの聖剣である資格はありません!”


 いやいや、だってまだ万全にはほど遠いんだろ? 無理しなくても……


“大丈夫です! やれます!”


 妙な展開になってきたけど、やるしかないか……


(分かった。じゃあ、徐々に全力を出すぞ)


 俺はミアと繋いだ手を通して魔力を込めた。


「あっ……」


 魔道具よりもはるかに安定してる……流石だ


(これなら大丈夫かな)


 よし、三割くらいまで魔力を込めてみるか


「ああっ……」


 ミアは少し顔をしかめたが、ちゃんと立っている。


(もう結界を解くには十分なんじゃないかな)


 ふと、そんなことを思ったのだが……


“マスター! これは私がマスターの聖剣として相応しいかどうかを試す試練なんです!”


 オイオイ、なんか趣旨変わってるぞ!


(だけど、まあ……止められないか)


 ミアの表情も声色も真剣そのものなのだ。


(よし……じゃあ五割で)


 俺はさらに強く魔力を込めた。


「あっ!……ああ」


 ミアはギュッと目をつぶる。も、もういいんじゃないか?


“マスター! まだ全力ではないですよね?”


(ま、まあ……)


“続きをお願いします!”


 うーん、じゃあ六割の力を込めるしかないのか……


「ああっ! あ……あ、あ」


 七割……


「あっあっあっ!」


 八割……いけるのか?


「い……だ……駄目……もうッ!」


 これはもう駄目なんじゃ……


“私は……やれ……ま……す”


 やるしかないのか……九割!!!


「っっっ!」


 くそっ、なら全開だッ!


「あああああッ!」


 ゴウウウ!


 轟音と共に景色が割れる。ついさっきまで何もなかったはずの場所には今、抜身の剣が宙に浮いていた。

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