第40話 食事

 ドレイクから話を聞いた後、俺達は……というか、レイアが蒼風の草原での出来事──ミアの声に導かれ、迷宮殺しダンジョンイーターと戦い、倒したこと──を話すと、ドレイクはあんぐりと口を開けた。


「聖剣の声を聞いた……まさか貴様にパラディンの素質があるとでも!?」


 あ、ミアの声ってパラディンにしか聞こえないのか。


(まあ、人の姿の時は別みたいだけど)


 【蒼風の草原】でミアの声がレイアに聞こえなかった理由がやっと分かったな。


「フェイが聖剣の声を聞けたことってそんなに驚くようなことなの?」


「パラディンへのクラスアップには神官騎士としての長い修業といくつもの試練を乗り越えなくてはならないはずで……」


 へー、それがパラディンへのクラスアップの条件なのか。


「つまり、あんたはまだまだ下っ端ってこと?」


「いや……まあ、神官騎士も誰にでもなれるようなものじゃないんだがな……」


 ドレイクは若干傷ついた顔をしているが、レイアは気にした素振りもない……


「で、聖剣に力を取り戻すために聖石が要るのよ。何処かにない?」


「そう言う理由なら俺が支給されている聖石を提供してもいいが……本当に聖剣を持っているのか?」


 ドレイクはレイアの話を疑っているというよりは信じられないといった様子だ。


(まあ、見せるくらいいかな)


“はい、その方が話が早いと思います、マスター”


 俺は鞘から聖剣フェリドゥーンを抜いた。


「まあ、流石に五等クラスだろうが──って、嘘だろ!」


 ドレイクは食い入るように聖剣フェリドゥーンを見つめた。


(あんまり顔を近づけると切れるぞ……)


 まあ、そんな馬鹿なことはないだろうが、ドレイクの反応はそんな心配をするくらいだったのだ。


「さ、三等クラス……しかもまだ回復しきってない」


 確かにミアはまだ全快ではない。リィナの料理を食べたりして大分回復したようだが、まだ三割程度だろう。


「ば、馬鹿な。何の儀式も行っていないにも関わらず、これほどの聖剣と契約しているとは……」


 このリアクション……やっぱりミアは凄い聖剣なんだな。


「分かったら早く聖石を頂戴」


「あ、ああ。しかし、大した役には立たないかもしれないが」


 そう言いいながら、ドレイクは聖石をレイアに渡す。すると、レイアは聖石を俺に渡した。


(ミア、これで良いか?)


“無いよりはマシです。質は量で補えます”


 つまり、これでは不十分ってことか。


「他に聖石が見つかりそうな場所はないの?」


「そうだな……」


 ドレイクのいう場所をレイアは手早くメモし始めた。





 それからドレイクから聞いた場所や事前に調べようと思っていた場所からいくつか聖石を見つけた俺達は日暮れる前に修道院に入っていた。


「意外とちゃんと残ってたな」

「多分、誰かが手入れにきているのでしょう」


 そう言えば、聖剣が封印されているってドレイクが言ってたっけ。ちなみに俺の問いに答えたのは人の姿に戻ったミアだ。


「寝具とかは駄目ね。でも、台所で湯を沸かすくらいなら出来そうね」


 手分けして修道院を調べていたレイアが戻ってきた。


(食事は〔アイテムボックス+〕から出せばいいし、寝泊まりするには十分だな)


 実は通常の〔アイテムボックス〕ではゆっくりと時間が経過するが、〔アイテムボックス+〕の中では時間が経過しない。だから、食料は〔アイテムボックス+〕に入れてきたのだ。


「とりあえず食事にしようか」


「賛成です、マスター!」


「そうね! 今日は何かしら!」


 ミアとレイアが歓声を上げる。冒険中は食事の質がどうしても下がりがちなのだが、今回はリィナに作ってもらった料理がいっぱい入っているので凄く助かってる。


(よし、今日はアレにするか)


 俺はリィナ特製の唐揚げにジャガイモのポタージュ、それに焼きたてのパンを取り出した。


「美味しそうですね、レイア様!」


「リィナの料理だもの。美味しくないわけがないわ!」


 みんなで合唱してからフォークを取る。まずはアツアツの唐揚げからだ!


(これは!!!)


 カラッと揚がった表面のすぐ下にはジューシな肉汁がたっぷり! 一口かじるだけで口の中に肉の旨味が広がっていく……


「このポタージュも美味しいです、マスター!」


 ジャガイモのポタージュは塩味が絶妙で、何杯でも飲みたくなる一品だ。また、肉汁に侵略された口内をさっぱりさせ、再び一から唐揚げを楽しめるようにもしてくれる。


(ありがとう、リィナ)


 美味しい食事に癒やされながら、心の中でそう感謝を告げていると、ドアを開ける音がした。


「あ、ドレイクじゃない!」

「こ、これは一体!?」


 ドアを開けて食堂に入ってきたドレイクは俺達の前にある料理を見て驚いた顔を浮かべた。


「一体どうやってこんな料理を……」


「フェイのスキルよ」


「なっ……」


 ドレイクは問いただしたそうに俺の顔を見て、口をパクパクさせたが、何も言わなかった。人のスキルを詮索するのはマナー違反だからな。


「ドレイク、私達も食事にしましょう」

「あ、はい。そうですね」


 ドレイクの仲間がそう言うと、奴はそそくさと準備し、食事を始めた。が、途中、何度も物欲しそうに唐揚げやポタージュをチラ見する。


(仕方ないな……)


 まあ、何だか可愛そうだしな。


「一緒に食べるか?」

「ば、馬鹿者!」


 ドレイクは持っていた硬そうな黒パンを握りつぶしそうな勢いで声を出した!


「誰が頼んだ、そんなこと! 他人から食事を恵まれるほど俺は落ちこぼれていないぞ!」


 あ、そう……


「じゃあ、気が向いたら言ってくれ」


 俺は再び食事を再開した。まあ、いらないって言うんだったら別にいいしな。

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