第39話 神聖オズワルド共和国

【タイクーン山脈 山間部 第五区画】


「そろそろ修道院につきそうね」

「ああ」


 俺は倒した仙鹿(ケリュネイア)のドロップを拾いながら返事をした。リーマスを出てニ日、俺達は順調に移動し、タイクーン山脈に着いていた。


(今までは野宿だったが、修道院の跡地が利用できればちょっとはマシになるな)


 放棄されてかなりの年月が立つようだが、ジーナさんによれば、前回の調査の時にはまだ修道院の建物は利用可能な状態だったらしい。


「それにしてもなかなか手強い魔物が出るわね」


 タイクーン山脈に出る魔物はLv70代。しかも『蒼風の草原』とは違い、上位種に進化しているのでレイアにとっては気の抜けない相手のようだ。


「まあ、Bランク以上しか入れない場所だけはあるよな」


 最後のドロップは……おっ、初めて見るぞ!



◆◆◆


 仙鹿の瞳

  瞳と呼ばれるが、実は体内の魔力が固ま

 り、石になったもの。魔道具から装飾品ま

 で様々な用途があり、需要が高いが、なか

 なか手に入らない。

 

◆◆◆

 


 これはレアアイテムっぽいな。


「ねえ、これを見て」


 急にレイアがかたい声を出した。何だろう……


「これって……」


 レイアの指先にあったのは真新しい靴跡。あれ、ジーナさんからは“ここ最近は誰も立ち寄っていない”っていう話だったけど……


「他の冒険者かしら」

「どうかな……」


 まあ、靴跡だけでは判断できないけど、冒険者がギルドを通さずにダンジョンに入るって言うのは基本考えられない。俺が言うのもなんだけど。


「とにかく警戒して進もう」

「そうね」


 そのまま警戒しながら小一時間ほど進むと、前方に建物の屋根らしきものが見えてきた。


「あれが修道院ね!」

「多分な」


 その瞬間、突然風切り音が立て続けに鳴った!


「レイア!」


 念のため声をかけたが、レイアも気づいていたらしく、身を屈めながら剣に手を添える。そして、逆に俺は目立つように前に出る。


“ミア、頼む!”


 俺が聖剣フェリドゥーンを抜くと、俺の左手には盾が現れ、飛んできた矢を残らず受け止めるが……


 ボンッ! ボンッ! ボンッ!


 矢は盾に当たると同時に爆発した。何だ? 爆薬でもついていたのか?


 キィィン!


 爆音に紛れるように差し込まれた斬撃を俺は聖剣で防ぐ。おそらくこちらが本命なんだろうな。


「何者だ、貴様!」


 俺に斬撃を浴びせた相手は飛び退くとそう聞いてきた。

 

(いや、お前が誰だよ)


 だが、流石にこのまま口に出せない。さて、どうするか……


「あんたこそ何者よ!」


 あ、言っちゃった……


「俺は神聖オズワルド共和国の神官騎士、ドレイクだ。今は聖剣の盗難事件を調査している」


 あれ、割と素直に教えてくれたな。


(聖剣の盗難? あれ、ひょっとして……)


 ちなみに神聖オズワルド共和国は俺達のいるサンマーア王国とガイザルック帝国の隣にある国だ。


「私達はリーマスの冒険者よ」


「冒険者? 俺とシノンの連撃を凌ぐような手練れがこんな辺境にいるはずが……」


 シノンというのは爆発する矢を打ってきた奴のことかな? まあ、確かに中々いい連撃だったな。


「ところで聖剣の盗難を調査してるって言うのは……」


「俺の任務については機密事項だ!」


 あれ? あっさりと話してくれそうに思ったんだけど、駄目なの?


「別に減るもんじゃないからいいでしょ!」


「……実は神聖オズワルド共和国内の教会や修道院が管理している聖剣が強奪される事件が起こっていて」


 あれ、喋り始めた。しかも、よく見るとちょっと顔が赤くなってる。


(ひょっとして、レイアを意識してる……?)


 神官騎士という立場のせいなのかは分からないが、いきなり攻撃をしかけてきたりと最初から高飛車で偉そうな態度が目立つドレイクだが、意外な弱点があるもんだな。


(まあ、レイアは美人だしな)


 性格には若干難はあるけど……


「その犯人らしき人物がサンマーア王国とガイザルック帝国を出入りしているとの情報が入ったので秘密裏に調査を……」


 ちなみに俺達が住むリーマスはサンマーア王国の一都市だ。


「ここの修道院に犯人がいるのか?」


「話せないと言ってるだろ!」


 おっと! しまった。話題が話題だけについ……


(神聖オズワルド共和国の神官騎士が身分を隠してサンマーア王国に入国してるなんて知られるわけにはいかないよな)


 にしても他の言い方はないのかよ……


「で、どうなの?」


「いや、その……犯人というより、盗難の被害に遭っていないかの調査を。元々、この修道院の管理者が俺の前任者だった関係で……」


「つまり、ここにも聖剣があるってこと?」


「厳重に封印されてはいるが」


 なるほど。しかし、何だか面倒な話になって来たな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る