第35話 騒ぎの原因は……

 それからしばらくしてレイアが俺の上から退(ど)いた後、俺達は黙々と片付けを始めた。


 最初は赤い顔をしていたレイアだが、次第に気持ちを立て直したらしく、辺りが片付いた時には(表面上は)すっかりいつものレイアに戻っていた。


「あ、これよ。私が見つけた記録は」


 そう言うと、レイアは近くの本棚から一冊のノートを取り出した。


「ありがとう」


 受け取ったノートに目を通すと……


(聖石は聖属性の魔力を帯びた魔石。聖属性の魔力が自然界に存在することは稀なので、貴重なものである)


 通常、魔石に宿る魔力は無属性だが、火山で火属性の魔力を帯びた魔石、火石が見つかったりと場所によっては属性を持つ魔力が石に宿ることもあるのだ。


(タイクーン山脈は昔、オブリビオ教の聖職者の修業場所だったため、今でも聖属性の魔力が大気や大地に存在している……か)


 なるほど。まあ、タイクーン山脈は生活するには過酷な場所だし、修業にはうってつけかもな。


「ね! ちゃんと書いてあるでしょ」


「ああ。調べてくれてありがとう、レイア」


「いいのよ、気にしないで。フェイには借りがいっぱいあるし。それよりいつ出発するの?」


 レイアは目をキラキラさせてそう聞いてくる。何だか遠足へ行く前の子どもみたいだな……


「取りあえずジーナさんに相談かな。今の状況とかも知りたいし」


 まあ、明日ジーナさんに話を聞きに行くか。





 翌日、レイアと一緒に冒険者ギルドに行くと、ちょっとした騒ぎが起こっていた。


「おい聞いたか、オルガの話……」

「ああ。アイツにちょっかい出した後にアレだろ……」


 オルガ? 


 ……ああ、俺に絡んできた奴がそんな名前だったかな。何かあったのかな?


(それに何か視線を感じるような)


 何故だろう。レイアの方に視線が集まるなら理解できるんだけど……


「ちょっとフェイ、こっちへ来て!」


 俺がギルド内でフラフラしていると、ジーナさんが物陰から俺を呼んだ。


「一体どうしたんだ?」


「どうしたもこうしたも……オルガが【赤土の山道】で大怪我しているのが見つかったのよ!」


 昨日俺が魔物と大量に遭遇したこと等を報告した後、ギルドの調査隊が改めて【赤土の山道】を調べにいったのだが、この時に大怪我をしたオルガを発見したらしいのだ。


「明らかに魔物による傷みたいだけど、オルガのLvで苦戦する魔物がいるはずがないし……」


 確かに。ちょっとやり合っただけだが、それは俺にも分かる。


「とにかく嫌われ者のオルガがあんなことになったから、フェイは今注目を浴びてるの」


 へ?


「何で俺が?」 


「だって、そのすぐ前にやりあっていたのはフェイでしょ」


 なるほど……いやいや、ちょっと待て! 本当に俺は無関係だから!


「いや、本当に何も知らないぞ!」


「わ、私だってフェイを疑ってるわけじゃないよ! みんなだって。でも、あんまりにも突然だから」


 まあ、俺も自分のことじゃなかったら似たりよったりかもな。まあ、どちらにしろ調べられたところで痛くも痒くもないし、ほとぼりが冷めるのを待つか。


「ところで私達、タイクーン山脈に行きたいんですけど、なにか情報はありませんか?」


「タイクーン山脈!? あんな危険な場所に?」


 ジーナさんがそう言うのも無理はない。タイクーン山脈は最低でもB級の冒険者でないと入れない場所なのだ。


「実は……」


 俺が事情を説明すると、ジーナさんは少し考えこんだ。


「まあ、今のフェイなら大丈夫だと思うんだけど……」


 どうしたんだろう。ジーナさんはちょっと言いにくそうな顔をしてるぞ。


「タイクーン山脈はB級以上の冒険者じゃないと入れなくて……」


「それは知ってるけど……あっ!」


 俺の冒険者ランクはEだった!


「フェイは【黄昏の迷宮】をソロでクリアしたりしてるけどランクが上がったりはしないの?」


 冒険者歴が浅いレイアがそう考えるのも分かるが……


「冒険者ランクは“受注した”クエストの達成度で評価されるの。強さだけじゃなくて信用を示す意味合いもあるから」


【黄昏の迷宮】は『白銀の翼』がとある魔物を倒すという依頼を受けて入っただけで、【黄昏の迷宮】をクリアする依頼を受けた訳じゃない。


 レベルアップした【蒼風の草原】のクリアに至ってはクエストを受注するどころか、ジーナさんの魔法で俺がやったことを隠しているくらいだ。


(最近、俺が受注したのって【赤土の山道】の調査くらいなんじゃ……)


 まあ、ソロで活動した点はちょっと目立つ点だが。


「じゃあ、フェイはタイクーン山脈に行けないってこと?」


「このままだと。何か手を考えないと……」


 ジーナさんはしばらく考えこんでいたが、急に席に戻り、何かを持って来た。


「フェイ、これを使うという手もあるけど……」

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