第34話 タイクーン山脈
<フェイ視点>
「タイクーン山脈ですか」
聖石が手に入るかも知れない場所として師匠の口から出たのは割と近くの場所だった。
「ああ、間違いない。昔調べた記録で確認した」
「調べたのは私よ、お爺ちゃん!」
あはは……それでこんなに早かったのか。
(タイクーン山脈……今の俺なら大丈夫かもな)
タイクーン山脈は二〜三日でいける場所だが、危険度は高い。どうも魔法や魔物の元となる魔素が集まりやすいらしく、強力な魔物が住み着いているのだ。
「まあ、私もいるし、大丈夫よ」
そう言うレイアとは師匠の家に来る前にギルドでパーティを組む手続きを済ませてある。
「聖石が昔見つかった場所は覚えたし、現地を見れば似た場所を探すことも出来ると思うわ。感謝してよね」
おおっ……偉そうだが、言うだけのことはあるな。
「師匠、俺もレイアが見つけた記録を見せてもらえますか?」
「構わないぞ。ワシはちょっと買い物をしてくるから留守番を頼むぞ」
そう言うと、師匠はさっさと出て行ってしまった。まあ、酒でも買いに行くんだろう。
「ふふん、じゃあ私が見つけた記録を見せてあげるわ!」
得意げな顔をするレイアだが、不思議と嫌な感じはしない。何故かと言うと……まあ、こんな無邪気な顔をすると可愛いのだ。
“マスター、申し訳ないのですが私は少し休ませて頂けませんか”
え、大丈夫か? 変なことを考えてる場合じゃなかった!
(それは構わないけど、大丈夫か? 無理をさせたか?)
“申し訳ありません。自分でも予想外に消耗してしまって……”
「どうしたの、フェイ?」
「実は……」
俺が事情を説明すると、レイアは人の姿になったミアを自分の部屋で休ませてくれた。
「悪いな」
「別にいいわよ、このくらい」
そんな会話をしながら俺達が向かうのは師匠の家の地下室だ。ここは、師匠が自分が研究した製法の記録やあちこちで集めた資料を保存しておくための書庫となってるのだ。
(魔法で年中湿度と気温が一定になってるから昼寝にも最適だよな)
まあ、散らかってるのとさほど空いたスペースが無いのがネックだが。
「こっちよ、フェイ!」
レイアがウキウキとスキップするように歩く。
(まあ、これだけ膨大な本の中から目当てのものを探し出したんだから得意にもなるか)
ただ、足場が悪いからあまりオススメは出来ないが……
「私だって役に立つんだから、ちょっとは頼りにしてくれてもいいのよ」
などと歩きながら後ろを向くのも危ないぞ。
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」
多分そんなことを考えながらだったので生返事になっていたのだろう。レイアはちょっと眉を上げた顔をして俺の方へツカツカと歩いてきたが……
ガツン!
レイアが床に転がった何かに躓いた。
(あ、ヤバい!)
俺はレイアが倒れないように支えようと手を伸ばしたのだが……
バタバタバタっ!
何せ狭い通路だ。体を上手く動かせず、結局レイアのクッションになるような動きしか出来なかった。
「痛ったぁぁ」
レイアの声が耳の近くで聞こえる……あ、押し倒されたような格好になってるのか。
(まずは起き上がらないと……ん?)
今まで触ったことのない感触が……何だ、これ?
「アンッ!」
レイアが妙な声を上げ……あっ、これってまさか
「……フェイは動かないで。後、何も触らないで。いい?」
俺は勢いよく何度も頷いた。自分の仕出かしたことに動揺するあまり、声さえ出ない。
「じゃあ、今から立ち上がるから………あっ!」
無理矢理にでも体を起こそうとしたレイアだが、どうも彼女の脚は色々なものに絡まっているらしい。レイアの体は一瞬持ち上がったが、直ぐに落下した。
「%∞∅γ」
再び下敷きになった俺の口から妙な声が漏れたのは顔全体を何かに覆われたからだ。柔らかい二つの何か……一体何が起こってるんだ。
「イタタタ……って、わっ!」
何かに気づいたらしいレイアが再び慌てて立ち上がろうとするが、再び起き上がれずに俺の体の上に落下した。
(一体何が……)
再び顔に押し付けられる柔らかな二つの何か。まあ、息は吸いにくいが、悪い気分はしないけど。
「フェイ、顔を動かしちゃだめ。後、何が起こってるのか考えるのも禁止!」
焦った声でレイアがまくし立ててる……
「それと何も感じないで! ……ちょっと、口を動かすなんてもってのほかだから!」
息を吸おうとすると、レイアがさっきよりも焦った声を出す。ええ……一体どうしろと
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