第33話 フラストレーション
<オルガ視点>
先回りして準備をしていると、あのE級の姿が見えた。
(もう来たのかよ! 相当な数の魔物を差し向けたはずだぞ!)
が、俺の準備はもう済んでいるから問題はないが。
(クククッ! これぞ俺の努力の結晶……)
周りには大猿(キラーエイプ)の死骸の山。そしてその頂点にひときわ大きな猿型の魔物が一匹。
(〔下僕化〕で棒立ちにした魔物を倒させて強制的にレベルアップさせた後、〔下僕化〕する。………クククッ! 我ながら良い考えだぜ!)
強制レベルアップした上、仲間を殺すというフラストレーションが影響して大猿(キラーエイプ)から大灰猿(グレービッグエイプ)へとクラスアップしたこいつならあのE級も一捻りだろう。
(普段なら最後にこいつをタコ殴りして経験値を得るんだが……今日はその前に一働きして貰うぜ)
いくら魔物でも仲間同士で殺し合いをさせるのはやり過ぎだとかいって俺のやり方を外道だと言う奴もいる。だが、所詮は魔物。どう扱ってもいいじゃないか。
(行けっ!)
俺は姿を見せたばかりのE級に下僕である大灰猿(グレービッグエイプ)を差し向けた!
スパッ!
は?
なんで大灰猿(グレービッグエイプ)が真っ二つになってるんだ? だが、その理由を俺が知ることはなかった。何故なら体を両断しかねない痛みが俺を襲い始めたからだ。
「ぐああああっ!」
俺は悲鳴を上げながら気を失った。
※
<フェイ視点>
探索は順調だった。ミアの調子が上がってくると──恐ろしいことに最初の戦いではまだまだ全力ではなかったのだ──盾を出すことも出来るようになったため、戦いは一層安定した。
(それにしても何だが妙だな)
“何がでしょう、マスター”
(魔物と出会う頻度とタイミングがな……まるで誰かが俺達に魔物をけしかけているような)
そんなことが可能なのかは分からないが……いや、待てよ。確か魔物を操れるクラスが……
“マスター!”
ミアが注意を促した先には今まで戦った大猿(キラーエイプ)と比べてひと回り大きな魔物がいる。あいつは何だ?
◆◆◆
大灰猿(グレービッグエイプ)
Lv60
◆◆◆
オイオイ、この『赤土の山道』のダンジョンボス、大猿王(キラーエイプキング)よりも強い魔物じゃないか! 何でこんな奴が……
“マスター、ギフトを試しましょう”
(ギフト?)
俺がそう問い返した瞬間、見慣れた剣閃が飛んだ。
スパッ!
大灰猿(グレービッグエイプ)の体に縦の切込みが走った後、魔物はゆっくりと倒れる。血が吹き出したのは倒れた後だった。
「ちょっと! 私に黙ってクエストに行くなんてどういうつもり!」
レイアだ。何故こんなところに……
「パーティを組むって言ったでしょ! 何で一人でクエストを受けてるのよ!」
まだパーティを組むと言ってないとは思うが……まあ、言いたいことは大体分かった。
「後で寄るつもりだったんだ。ほんの肩慣らしのつもりだったし」
「本当でしょうね?」
そんな圧をかけなくても大丈夫だってば。
「あ、そう言えばお爺ちゃんがフェイを呼んで来いって言ってたわ。聖石があるかもしれない場所が分かったって」
調べてくれたんだ、師匠! しかも早い!
「分かった。ギルドで報告したらいくよ」
ついでにパーティの件も一緒に手続きしておくか。
※
<オルガ視点>
い、痛てて……
どうやら痛みのあまり気を失っていたようだ。
(くそッ! 一体何があったんだよ!)
〔下僕化〕していた大灰猿(グレービッグエイプ)が大ダメージを負ったせいで俺に痛みの一部が返って来たのか。
(にしても……どんだけの威力なんだよ)
何らかのスキルなんだろうが、E級冒険者が持てるようなものじゃない。
(大灰猿(グレービッグエイプ)が一発でやられて……って、ん?)
大灰猿(グレービッグエイプ)の体は消えてない。まだ息があるのか。俺が大灰猿(グレービッグエイプ)の方を見ると、奴は気怠げに顔だけを俺の方へ向けた。
(だが、虫の息だ。もう役には立たないな)
即死は免れただけか。チッ!
(まあ、経験値とドロップは頂いておくか)
俺は身体を起こし、剣を抜いた。やつの瞳が俺の動きを追うが、体はピクリとも動かない。
(くそっ、この役立たずが!)
俺は怒りを込めて剣を振り下ろした!
が……
ボコッ!
理解できないことに痛みと共に俺の体が宙を舞った。攻撃された? 一体誰に?
(まさか大灰猿(グレービッグエイプ)はまだ動けたのか!)
俺が一度気を失ったために大灰猿(グレービッグエイプ)にかけていた〔下僕化〕の効力は切れている。だが、どうみても動けそうになかったので再度かけ直したりはしなかったのだ。
(早く〔下僕化〕を……)
ボコッ!
ガフッ! 死にぞこないのくせにこのパワー……
ボコッ! ボコッ! ボコッ!
くそっ、何だって言うんだこの執念……既に動ける体じゃないだろうが!
この時の俺は気づかなかった。同族殺しをさせられた大灰猿(グレービッグエイプ)は俺への憎しみを限界以上に溜め込んでいたことを。
そして、それを晴らせる千載一遇のチャンスに歓喜していたことを。
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