第32話 倍返し

「俺は拳を使う。お前は剣でも何でも使え」


 ステータス差を考えれば剣なんか使えば確実に殺してしまう。せめてもの自衛策のつもりだったのだが……


「馬鹿にしやがって! 殺してやるッ!」


 あれっ……怒らせてしまった。まあ、そうなるか。


(仕方ないな……)


 俺はオルガの足元へスライディングをするようにして奴の大振りの攻撃をかわす。


「っ!」


 オルガからすれば俺が急に消えたように見えただろう。だが、目的はヤツの攻撃を回避することだけじゃない。俺はその勢いを殺さずオルガの足を払った。


 ドカッ!


 剣を振った直後に足を払ったため、オルガは受け身さえ取れずに転倒した。


 ダンッ!


 オルガの頭のすぐそばの床に俺の蹴りが突き刺さる。ふぅぅ…… これで終わりかな。


「だっさ、何あれ……舐めてかかった相手にやられてやんの」


「かっこ悪りぃな!」


「いい気味だよ、嫌われ者が!」


 周囲でヒソヒソと呟かれるそんな声にオルガは顔を赤くする。コイツ、相当嫌われてたんだな。


 だが、中には別の声もあった。


「それにしても俺、目で追うのがやっとだったんだけど」


「ああ、俺もだ。あれ、フェイだよな? 俺と対してLvが変わらないはずなんだけど……」


 こんなふうに悪目立ちしないために速度も力もアバロン達くらいにセーブしたはずだが……


(あ、E級冒険者がC級冒険者の動きをしてたらおかしいか)


 うん、ミスった!


「ふん、実戦じゃスキルが物を言うんだ! こんなもんで勝ったところでなんの意味もねえよ!」


 そういい放つと、オルガは周りの冒険者に“さっさと退(ど)け!”などと言って道をあけさせながら冒険者ギルドを後にした。





【赤土の山道 第一区画】



 冒険譚ギルドを出てからは特にトラブルはなく、目的のダンジョンに着いた。


(人影はないな)


 ここは厄介な魔物が多い上、大したアイテムが手に入らないため、人気がない。だから、どんな様子かを調査してくるクエストがあるのだ。


(それに厄介な魔物の方が色々試せるしな)


 今日の俺の目的は腕試し。厄介な魔物も人気がないことも大歓迎だ。


(おっ、来た!)


 俺は近づいてくる魔物に〔超鑑定〕を使った。



◆◆◆


 大猿(キラーエイプ)

 Lv32

 素早い動きに注意が必要。劣勢になると

 仲間を呼ぶ。


◆◆◆



 ここに出る猿系の魔物は動きが早い上、魔物にしては知恵も回るのでLvの割に手強い。


“マスター!”


 ミアに呼ばれるままに俺は大猿(キラーエイプ)に斬りかかる。聖剣フェリドゥーンはまるで俺の体の一部のように自在に動き、魔物の体を切り裂いた。


(これは!)


 ほとんど力を入れていないのに大猿(キラーエイプ)が真っ二つ……いや、これ傷口が綺麗すぎない?


 大猿(キラーエイプ)は仲間を呼んで群れで攻撃して来る厄介な魔物なんだが、俺と聖剣はそんな暇さえ与えなかった。


(まるで手に吸い付くようだ)


 ステータスを考えたら楽勝なのは当たり前なので、別に結果には驚いていない。俺が確認したかったのは一緒に戦った時の感触なのだ。


(これが聖剣……他の剣とは全く違うな)


 黒炎の剣もいい剣だが、聖剣フェリドゥーンとは比べ物にならない──というか、ハッキリ言って次元が違う。


(ミア、もう少し行けるか?)


“まだまだやれます!”


 よし。じゃあ、もう少し試してみるか!





<オルガ視点>

 

 くっそ、あの野郎! E級の癖にC級の俺に恥をかかせやがって!


(だがな、クククッ。倍返ししてやるからな)


 ちょっと腕が立つくらいじゃ魔物には通じない。何せ冒険者はステータスとスキルが命なんだからな!


(よし、あいつがいいな)


 茂みに潜みながらフェイとかいうE級冒険者を監視していると、丁度いい魔物を見つけた。


(大猿(キラーエイプ)だな。あいつなら仲間を呼んであのE級を袋叩きに出来る!)


 俺のクラスは「ビーストテイマー」。魔物を操り、手駒とするクラスだ。花形のクラスとは言い難いが、俺はある方法で効率的にレベルアップし、C級にまで登りつめたのだ。


(くらえ、〔下僕化〕!)


 無防備だった上、Lv差もかなりあったため、大猿(キラーエイプ)はあっさりと俺の虜となった。


(行けっ! まずは一発ブチかましてやれ!)


 体長五〜六メートルもある大猿(キラーエイプ)が馬よりも速い速度で突進してくるんだ。E級のステータスなら大ダメージだ。


(で、苦痛にあえぐ間に仲間を呼んで……)


 無論、直ぐには殺さない。たっぷりといたぶってやるつもりだ。


(クククッ、最初に潰すのは腕と脚、どちらがいいかな)


 反撃の手段と逃走の手段、どちらから奪うのが効率的かな……


 余裕ぶってそんなことを考えていた俺だが、次の瞬間、鋭い痛みが走った!


「痛ッ!!!」


 痛みのせいで呼吸さえままならない。何だ? 何なんだよ、この痛みは!


(まさか大猿(キラーエイプ)が……)


 肩で息をしながら様子をうかがうと……何と大猿(キラーエイプ)が倒れている。これは一体……


(今の痛みは大猿(キラーエイプ)が殺られた時のものか)


 〔下僕化〕した魔物と俺とは魂が繋がっている。だからこそ操れるのだが、あまりに大きな刺激があるとこんなふうに影響を受けてしまうのだ。


(普通はこんなことないんだが……あいつ、一体何をしやがったんだ?)


 まあ、何をやってても関係ないけどな。あいつは俺を怒らせたんだから。


(クククッ! なら見せてやるよ。俺の本気をな)


 俺は先回りすべく辺りの魔物をE級へと差し向けつつ、先を急いだ。

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