第31話 いちゃもん

<フェイ視点>


 ミアの世間知らず(というか常識のなさ?)にバタバタしながらも、俺は何とか一夜を過ごすことが出来た。


(床で寝れば大きな危険はなかったな)


 俺の作戦がちだ!


「お兄ちゃん〜 起きてる? 朝ご飯だよ〜」


 リィナの声だ。よし、ミアを起こして……


「ミア、朝だぞ」

「んっ……」


 俺が軽く肩を揺するとミアは吐息を漏らしながらゆっくりと目を開けた。


「おはようございます、マスター」


「リィナが朝ごはんを用意してくれたみたいだし、リビングに行こう」


「はい、マスター」


 ベッドから起き上がったミアと共にドアノブを握った途端、俺にある懸念が生まれた。


(このまま部屋を出たら、リィナにはどう見えるだろう……)


 自分とミアが並んで部屋から出てくる……それは絵的にヤバい。ヤバ過ぎる。


「ミア、一度聖剣になってくれ。で、リビングに入ってから人の姿に戻るんだ」


「何故ですか?」


「なんて言ったらいいか……」


 この辺りの微妙なニュアンスをどうミアに説明したものかな……


「分かりました、マスター」


 結局何の説明も出来なかったが、ミアは聖剣の姿になってくれたため、俺は無事にリビングに向かうことが出来た。


「おっ、今日も美味しそうだな」


 瑞々しい葉物野菜に真っ赤なトマトのサラダにスクランブルエッグ、その隣にはカリッカリに焼かれたトーストが置かれている。


「リィナ姉様は料理上手ですね!」

 

 スクランブルエッグを一口頬張るなり、ミアが笑顔を浮かべる。確かに旨い、旨いのだ。


「もう〜 ミアは可愛いなあ」


 そう言いながらリィナはミアの頭を撫で回す。確かに普段表情があまり変わらないミアが笑顔を見せると無茶苦茶嬉しくなるよな。


「お兄ちゃん、今日はどうするの?」


「そうだな……ミアさえ良かったら適当なクエストを受けてみたいな」


「私は大丈夫です、マスター」


「分かった。じゃあ、お弁当作るから持って行って。私は美味しい夕ご飯を作って待ってるからね」


「ありがとう、リィナ姉様」


 ちなみにミアとリィナはいつの間にか打ち解けており、こんな調子で話すようになっている。最も、ミアの『リィナ姉様』には違和感があるのだが、本人達は楽しそうなので好きにさせている。


(あ、帰りに師匠の家に寄らなきゃな)


 パーティの件の答えをレイアに伝えないといけないからな




  

「このクエストを受けたいんですけど」 


 あ、今日の受付はジーナさんだ。


「はい、かしこまりました。冒険者プレートをお願いします」


 クエスト受注時には冒険者プレートにクエストの内容などを魔法で書き込むのだ。


“リィナは大丈夫なんでしょうね”


 ジーナさんが目配せで俺にメッセージを送る。実際に口にしたら公私混同になっちゃうからな


「はい、確認しました。『赤土の山道』の調査クエストのエントリーが完了しました」


 そう言って冒険者プレートを渡してくれたジーナさんに“大丈夫です”と目配せをして俺は受付を離れた。


「『赤土の山道』? お前、そんな立派な武器を持ってるのに何であんな場所へいくんだ?」


 何だ、こいつら?


(放っといて欲しいんだけどな)


 奴らの視線は俺が帯びている黒炎の剣に向いている。くそ……これが目を引いたか。


(かと言って、聖剣を持てばもっと目立つしな)


 もう少しボロい剣の方が良かったか……


「お前、ランクは?」


「Eだ」


「Eだって!? ド素人じゃねーか! 分かった。さてはマグレでいい武器を手に入れたからって調子に乗ってるな? 『赤土の山道』はDランクのダンジョンだもんな」


 冒険者が受けられるクエストは自分のランクの一つ上と一つ下までと決まっているのだ。


「肩慣らしには丁度良いかと思って」


「おもしれーな、お前。よし、先輩が現実って奴を教えてやるよ!」


 イチャモンをつけてきた冒険者がそう言うと、周りの冒険者が一斉にどよめき始めた。


「始まるぞ、弱い者イジメが」


「おい、助けてやれよ」


「バカ! オルガはCランクの冒険者でLvも70台。どうしようもないよ」


 どうやら相手の名前はオルガというらしい。


(Lv70台ってことはアバロンよりも少し強いくらいか)


 そんなことを考えていると、周りから人がどき、小さな円状のスペースが出来た。


「さあ、かかってこい! お前が負けたら腰に下げてる剣は俺のものだ」


 オルガは鞘がついたままの剣を構えながらそう言って来るが、俺としては剣はやるから構わないで欲しいのだが……


“フェイ、ボコボコにしてやって!”


 ジーナさんにそんな目配せをされてはそう言うわけにも行かない。俺は仕方なく、拳を前に出した。


「お前、なんのつもりだ?」

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