第30話 武器だからって……
(フェイ視点:微エロ ギャグ回くらいのつもりで読んで頂ければ嬉しいです)
「気兼ねなく石鹸を使えるっていいな」
『白銀の翼』にいた頃は生活がカツカツだったため、何もかも必要最小限だったが、今は違う。必要なものは必要なだけ買うことが出来る。
ガチャ!
ん? 浴室のドアが空いた音か?
「リィナ? 何があったのか?」
リィナは夕食の準備をしていたはず……しかも、浴室のドアをノックもせずに開けるなんてするはずがないな。
「マスター、私です」
「はあぁぁ?」
ドアの方を振り向くと、そこにはタオルで前を覆っただけのミアがいた。
「な、なななんでミアが?」
「私はマスターの武器ですからいつも傍にいます」
おいおい!
と突っ込みながらも俺は視線がミアの体に引き寄せられていくのを止められなかった。タオルがあるとはいえ、均整の取れたボディラインは隠しきれていないのだ。
「浴室には武器は持ち込んだら駄目だろ!」
何とか顔を背けながらそう言ったのだが……
「今は人の姿をしてますから」
どんな理屈だよっ!
「なおさら駄目だ!」
小首をかしげる様は最高に可愛らしく、俺の自制心は深刻なダメージを負う。
(負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ……)
呪文のように心の中でそう唱え、必死に煩悩をおいだそうとする。が、神はそんな俺にさらなる試練をもたらした!
「お兄ちゃん、どうしたの?」
リィナの足音! ヤバい!
「ミア、聖剣に戻ってくれ」
「何故ですか? これから──」
「いいから早く!」
聖剣の姿になったミアを〔アイテムボックス+〕に入れたのと、リィナが浴室のドアをノックしたのはほぼ同時だった。
「どうかした? 何か声が聞こえたけど?」
「何でもないよ。久々のシャワーが気持ちよくて」
「そう? なら良かった。もうすぐご飯出来るからね」
リィナの足音が離れていく。ふぅ……危なかった
“もう大丈夫ですよね?”
全く大丈夫ではないが、仕方がない。このまま『アイテムボックス+〕に入れっぱなしという訳にもいかないからな
俺が聖剣フェリドゥーンを〔アイテムボックス+〕から出すと、直ぐにミアが現れた。
「ではお背中を流します」
これは腹をくくるしかないのか……俺は思考停止のまま、背を向けた。
石鹸で泡立った布越しにミアの柔らかな手の感触を感じる……
「マスター、申し訳ないのですが後で私の背中も流して下さいね」
何だと!
「後、髪を洗うのも手伝って頂きたいです。私、まだ人間の体に慣れてないので」
おいおい、それって裸が見えちゃわないか?
「というより、差し支えなければ全身くまなく洗って頂きたいです。洗い方とか分からないので」
どう考えてもそれは絶対ダメなやつだろ!
「ミア、それはマズイ。赤字警告が来たら多分全てカットしなきゃ行けなくなる……」
「何故ですか? 剣を研ぐのと同じだと思いますが」
んなわけあるか!
※
満足度200%の夕食が終わった後、俺達はそれぞれ寝る準備をして、各々の部屋へと別れた。
「おやすみ、お兄ちゃん」
「おやすみ、リィナ」
そう言えば、あそこで一晩過ごした日もあったな……
(って、俺は一体何を考えてるんだ!)
思わずあの時のことを思い出しそうになり、俺は慌てて自らを戒めた。
「どうしたんですか、マスター?」
「って、ミア! 何でここに!」
「私はマスターの武器ですからいつも傍にいます」
いやいや、だからと言って同室という訳には行かないでしょ!
「お兄ちゃん、どうしたの?」
声を聞きつけたリィナがドアをノックする。
(こんな場面を見られたらヤバい!)
パジャマを着て俺のベッドに横になっているミアと直ぐ側にいる俺。どう見ても誤解を招くに違いない。
「ミア、聖剣モード!」
今度はミアも直ぐに姿を変える。俺は聖剣フェリドゥーンをベッドの傍に立てかけた。
「お兄ちゃん?」
「ああ、リィナ。ごめんな。ミアが寝るときは剣の姿じゃないと駄目って言い出して」
「そうなの? ベッドとか用意したのに」
「そうなんだよ。まあ、でもしばらくすれば大丈夫らしいから、そのうち使うことになるかも」
「そっか、なら良かった。聖剣も大変なんだね」
「みたいだな。あはは……」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ、リィナ」
バタン!
ドアを閉めた瞬間、再びミアが姿を現した。
「では、おやすみなさい」
「待て待て!」
リィナに気づかれないように小声で制止するが、ミアはそのまま寝入ってしまった。
(よほど疲れていたんだな)
美少女は寝顔も綺麗だな……
(駄目だって! しっかりしろ、俺!)
自分で頬を叩いて何とか正気を取り戻す。我ながら馬鹿なことをやっているとは思うが、そうせざるを得ないくらいミアは可愛いのだ。
(ゆ、床で寝よう……)
そう。君子危うきに近寄らずって奴だ。
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