第29話 リィナとミア

「可愛いっ!」


 ミアを見るなり、リィナはそう言って傍に駆け寄った。


「うわぁ! お人形さんみたい! 素敵な髪……綺麗な瞳……」


「私はミアと申します。よろしくお願いします、リィナ様」


 ミアはリィナのテンションにも構わず……って感じだな。流石聖剣……


「あれ、でもお兄ちゃんはさっき聖剣を紹介するって……」


「実は……」


 俺が事情を説明すると、リィナは目を輝かせた。


「じゃあ、一緒に暮らせるってこと!? よしっ! じゃあ夕食は腕を振るわなきゃ」


「おいおい……」


 自分が病み上がりだってこと、忘れてないか?


「あっ……でも部屋は一緒でもいいのかな?」 


「私もそう考えていました」


 俺を置いて話はトントン拍子に進んでいく……


「……まあ、リィナがいいならいいんじゃない?」


 リィナのテンションについていけなかったらしいジーナさんはやや疲れた顔だ。


「じゃあ、昼ご飯を食べたらミアの服とか家具とかを買いに行こうね!」


「いいけど、あんまり無理しちゃ駄目だぞ」


「分かってるよ、お兄ちゃん!」


 本当かなぁ?





<アバロン視点>


「やっと着いたか」


 冒険者プレートをロックされたため、実入りの悪い仕事をせざるを得なかった俺達はようやく商人を目的地まで運ぶことが出来た。


「こんなはした金を受け取るためにこんなド田舎までくるなんて……」


 エスメラルダがそうこぼすのもまあ、無理はない。俺達がやって来たのはただの農村。冒険者ギルドは勿論、まともな店や宿屋さえないような場所なのだ。


「……とりあえず休みたい」


 おいおい、バルザス! 力自慢、体力自慢のお前まで疲労困憊なのかよ


(まあ、道中の衣食住は酷かったからな)


 雑用は全部フェイ任せだったから俺達はテント一つまともに立てられず、依頼人である商人に笑われる始末だったのだ。


(おまけに魔物を退治してもドロップを拾うことさえままならない……)


 今まではフェイの〔アイテムボックス〕があったので何も考えなかった。だから普通のパーティがするみたいにより価値の高いドロップを残して、持ちきれないものは諦めたりする判断が出来ないのだ。


「お前さん方は冒険者かな?」


 汚らしいジジイだ。まさかこんな奴と会話をするはめになるとは


「……そうだが」


「いや、こんな真っ昼間に道端に座り込んどるからな。本当に冒険者なのかと疑っただけじゃよ。フワッハハハ!」


 何がフワッハハハだ! このクソジジイ! バカにしやがって!


「なら丁度良かった。仕事を頼みたいのじゃ」   


 何?


 全員、あまりいい顔はしていない。どうせこんな場所で受ける仕事なんてロクでもな──


「ロッデオまで持って行ってほしいものがあるんじゃ」


 ロッデオって確かこの近くにある都市だな。確か冒険者ギルドがあるくらいの規模だったな。


(気に入らない仕事だが、今は渡りに舟じゃないか)


 冒険者プレートのロック解除にしろ、ドロップの買い取りにしろ、どの道行かなきゃいけない場所だ。懐が寂しい現状を考えれば答えは決まっている。


「礼と言っては何だが、今日は泊めてやるし、道中の食料もやるぞ」


「ふざけないで、私達はCランクパーティよ! こんな田舎で荷物運びのクエストなんてやるわけないでしょ!」


 おいおい、エスメラルダ! 相変わらず無駄にプライドが高い奴だな、お前は!


「待て。また野宿したいのか!?」

「くっ……」


 ふう。何とかエスメラルダを抑えられた。だいたいフェイがいた頃の快適な野宿の時ですら、やれ虫だとか文句を言っていた女だから、今はもう我慢の限界なのだ。


「本来俺達が受けるような仕事じゃないが、どの道ロッデオには行くつもりだったしな。やってやるよ」


「おお、そうか。助かるわい」


 ジジイは所々歯の抜けた顔でニッコリと汚らしい笑顔を浮かべるが、別にお前のためじゃないからな!


「しかし、野宿が嫌なんてあんた等は本当に冒険者らしくないのう」


 何っだとぉぉっ!


「まあ、いいからついてきな。家まで案内するからな」


 そう言われてついていったのだが……


「ここがワシの家じゃ」


 連れられてきたのは、古い農家と言った雰囲気の建物で、サイズも周りの農家より一回り小さい。


(俺達全員を泊めるスペースなんてあるのか???)


 俺から見れば、倒壊寸前の物置きにしか見えないんだが……


「一人住まいじゃからな。心配せんでもあんたらはあっちを使ったらええ」


 どうも俺の考えは顔に出ていたらしい。こんな汚いジジイに心を読まれるなんて、癪にさわるな!


 だが、そんな思いはジジイの指した方を向いた瞬間、そんな不満は吹き飛んだ!


「なっ……馬小屋だと!?」


 何を言ってるんだ、このジジイ。まさか俺達に馬小屋で一晩過ごせと言ってんのか!?


「商人にはよく貸してやるんじゃが、野宿より快適だと良く言われるわい。あ、布団代わりに干草を使っていいからの」


 “飯は後で持ってくるからの〜”という脳天気な声が聞こえるが……駄目だ。もう情報を整理しきれない……


「私、もう嫌っ! 何でこの私がこんな目にあわなきゃいけないのよ!」


 エスメラルダが嗚咽を漏らす。だがな、泣きたいのは皆同じなんだよ

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