第26話 お願い
<フェイ視点>
“あの……”
あ、忘れてた。
“そう言えば君は?”
喋る剣なんて聞いたことないし、何か
“私は人から聖剣と呼ばれている存在です”
聖剣! 神が作り、人に与えたと言われるあの……
(物語のなかだけの存在だと思ってたんだが)
俺は英雄の冒険譚が好きでよく読んでいたが、それでも聖剣についての書かれた部分は流石に空想というか、こうだったらいいなあというようなものだろうと思っていたからだ。
「でも、聖剣が何故
“説明したいのですが、私はかなりの力を使ってしまっていて……助けていただいた上に申し訳ないのですが、少し休ませて頂けませんか?”
そりゃそうだ。さっきまで息も絶え絶えだったんだからな。
「分かった」
“ありがとうございます”
あれ、でも具体的には何をすれば良いんだろう?
「ねえ、フェイ。何を話してるの?」
あ、レイアには聞こえてないんだった。
「実は……」
説明しようとしたその時、急に聖剣が白い光を放ち始めた。
「な、何?」
俺に聞かれても……と言おうとした瞬間、光が収まる。そして、俺の腕の中には……
「お、女の子!?」
聖剣が姿を消し、見知らぬ少女が俺の腕の中で寝息を立てていたのだ。
「フェイ、これは一体どういうこと?」
俺に聞かれても……
(もしかして、この女の子は聖剣なのか!?)
確証はない。が、今思いつくのはそんなことくらいだ。
「とにかく帰ろう。それにリィナに薬を飲ませないと。」
ジーナさんに言われていた時間までもうあとちょっとだし、大体出来る説明もないのだ。
「一段落ついたら説明してもらうわよ」
レイアはそう言うと素直にボスを倒した後に出現した魔法陣の上に乗った。
◆◆◆
蒼風の草原を出ますか?
→YES No
◆◆◆
待ってろよ、リィナ!
※
その後、俺達は「幻術士」のスキルで俺達の侵入を誤魔化してくれたジーナさんの手引でこっそり『蒼風の草原』からリーマスに戻り、ヘーゼルさんの療養所に戻った。
アイテムボックスから出した大量のニガハッカにヘーゼルさんは目を丸くしたが、すぐに薬の精製に取りかかってくれたため、三日目の朝にはリィナは薬を飲むことが出来た。
「じゃあもう少し休んでいてね、リィナ」
「ありがとうございます、ジーナさん。それにお兄ちゃんも」
「良いって。元気になったらみんなでまたご飯を食べに行こう」
ジーナさんは一瞬俺を睨んだが、その場では何も言わずリィナの部屋を後にした。
「そうね……今のリィナには少し刺激が強い話だもんね」
「………」
リビングには蒼風の草原から連れて帰った女の子が朝食をとっている。
一応、確認したところ、彼女は俺が
「自分以外にも妹が出来ていたなんて知ったらショックでしょうね」
ジーナさんからの風当たりが強いのには訳がある。それは俺が『蒼風の草原』を
(ジーナさんのクラスは「幻術師」。幻術で俺達がダンジョンへ入ったことを誤魔化せてもクリアされたことは誤魔化せないもんな)
つまり、隠蔽工作をやり直す羽目になったと言うことだ。結果、謎の冒険者アリステッド男爵が無断でダンジョンに入り、クリアしてしまったということにしたらしい。
「尻尾を掴まれないようにしてよ、アリステッド男爵!」
うう……ジーナさんからの圧が怖い。
「どうかしたのですか?」
俺達のやり取りを見て心配したのか、少女が不安げな表情を浮かべた。
「な、何でもないよ。それより君の名前だけど……」
実は彼女から人の姿でいる時の名前をつけて欲しいと言われていたのだ。
(銀髪のショートカットにクリーム色の瞳……)
絵画から抜け出したような整った顔立ちとなかなか見ない色をした髪と瞳のせいか、まるで妖精のようだ。
(だめだ。容姿から名付けようとしても何も浮かばない……)
なら語感でそれらしいものは……
「ミアって言うのはどうかな?」
「ミア……いい名前ですね」
ミアはにっこりと可愛い笑顔を見せてくれた。
(良かった。気に入ってくれたみたいだ)
ミアは聖剣ということもあって普段あまり表情が変わらない。だから、こんなふうにたまに笑ってくれた時には凄く嬉し──
「フェイ様、お願いがあるのですが」
「おっ、おう。何だろう?」
会話の最中に余計なことを考えていてはいけないな。
「私を刀鍛冶のところへ連れて行っては貰えませんか? 出来れば腕の立つ方のところへ」
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