第24話 決意

 ドゴォォォーン!


 俺に炸裂したスキル攻撃は辺りに窪地を作るような威力だった。


「フェイ!」


 攻撃で舞った土煙で俺を見失ったレイアがそう叫ぶ。が、十分な態勢で受けられたこともあり、俺は案外余裕だった。


(本来なら最初の蹴りでよろめいたところに叩き込む攻撃だもんな)


 大泥鼠(ビッグマッドマウス)とはさんざん戦ったからこの手順は知っている。けど、威力が違いすぎて同じものとは思えないくらいだ。


「ハッ!」


 スキル攻撃の直後で硬直する大泥鼠(ビッグマッドマウス)に俺はすかさず斬りつける。絶好のチャンスなのに〔グランドクロス〕を使わなかったのには勿論理由がある。


「〔疾風切り:二連〕!」


 移動しながら斬りつけるレイアのスキルだ。レイアは俺の意図を汲んで、ヒットアンドアウェーに徹してくれている。


(戦闘になると素直なんだけどな)


 勿論口には出せないが。


「キキッ!」


 悲鳴を上げる大泥鼠(ビッグマッドマウス)。よし、次で止──


 ブン!


 俺の頬を何かがかする。何だ? こんな攻撃、大泥鼠(ビッグマッドマウス)にはないぞ。


 ブン! ブン! ブン!


 背中から伸びた鞭のような何かによる攻撃……なんだ、これ?


(背中に何かついてるぞ……)


 今までは全く気にしてなかったけど、背中に緑色の何かがくっついている。


(ブニョブニョした何か……粘液生物(スライム)のようなものか?)


 そこから手が伸び、俺達に襲いかかっているのだ!


「うっ!」


 無数の触手による波状攻撃にレイアがよろめく。カバーに入ろうとしたが、レイアは何とか切り抜けて距離を取った。


「足手まといにはならないって言ったでしょ!」


 言葉こそ強気だが、レイアは肩で息をしており、あまり余裕はありそうにない。


(何にせよ、あいつを調べて見るか)


 俺が〔超鑑定〕で調べようとしたその時、再び声がした。


“あい……つが迷宮殺しダンジョンイーター……の正体……人間が……作り出し……た魔物”


 な、何だって!


“魔物とは言って……も、あいつには……意識も……心もない。だから、あいつは……私の力を使って……かろう……じて自我に……近いもの……を作り……出して……いる……だけ”


 君は一体? じゃあ、俺は何をしたらいいんだ?


“わたし……をさ……がし……て”


 突然失神したかのように声は唐突に途切れた。


(ずっと俺に語りかけていた君は今どこに……)


 分かりきった答えだ。だが、根拠は俺の直感だけ。確かなものなんて何も……


「何を一人で抱え込んでるのよ!」


 !!!


 レイアか! おいおい、その傷、大丈夫なのか!?


「まさかこの後に及んで、誰にも迷惑をかけないようにとか下らないことを考えてるんじゃないでしょうね!」


 スパパパパン!


 レイアの〔六連刃〕が彼女の周りの触手を肉塊に変える。が、すかさず大泥鼠(ビッグマッドマウス)の背にある緑の塊が反応して……


「私を弱点扱いしたら承知しないわよっ!」


 いや、そんなつもりは……


「〔飛刃:三連〕っ!」


 スキル使用による硬直を無視してレイアが技を放つ。本来動くはずの無い体を動かすのは鍛えた心身の力そのものだ。


「迷ってないでとにかくやりなさい! 今度は私がサポートしてあげるわ! くっ……!〔剣の舞〕ッ!」


 レイアが今使ったスキルはいわゆる切り札。体に無理をさせまくったこのタイミングで使えばただではすまないはずだ。


(レイア、お前、まさか……)


 レイアには見抜かれていたのだ。俺の迷いが。


(分かってた、君が何処にいるのかは)


 でも、迷った。そこまで行けば仲間(レイア)に迷惑をかけるから。


(でも、護ることと遠慮することは別物なんだな)


 当たり前の話だ。一緒にいる仲間を信じなくては何事も成し遂げられるはずがない。そして、自分を信じなくては誰からも信じて貰えない!


(俺は……自分の直感を信じるッ!)


 俺は盾を捨てて走った! 今はレイアが敵を引き付けてくれているから仲間を護る盾はいらない。そう、俺にとって盾は仲間の為のものなのだ。


(いつだろう。俺が盾を使わなくなったのは……)


 それがいつなのかはハッキリとは思い出せない。でも、多分自分が『白銀の翼』の他のメンバーとは対等じゃないと感じた瞬間じゃないかと思う。


(でも、今はその時とは違う。今は……)


 今は信じなくては! 仲間(レイア)が信じてくれた俺自身を信じなくては!


「あああっ!」


 俺の一撃は武器もスキルも武術も何も使っていない。だが、それでも、俺はそれが正解だと確信していた。何故なら、最初からそうすべきだと確信していたからだ。


「やっと見つけたよ、君を」


 俺の脳裏には一瞬可憐な少女の笑顔が浮かんだ。

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