第12話 双方の旅立ち
次の日、俺はリィナと一緒に待ち合わせ場所に向かった。俺は一人で行くと言ったのだが、リィナは見送りがしたいと言って聞かなかったのだ。
(そんな大した場所に行くわけじゃないんだけどな)
油断しているわけじゃないが、正直今のレベルとスキルなら苦戦する方が難しいのだが……
「待たせて悪かったわね」
約束の五分前に来たレイアは俺の顔を見るなりちょっとバツの悪い顔をした。
「いや、来たばかりだから気にしないで」
そんなやり取りをしていると、リィナがポソっと呟いた。
「新しいお弟子さんって女の子……しかも美人……」
「リィナ?」
俺が声をかけると、リィナはハッと我に帰った。
「えっ、あっ、何でもない! 男の人だと思ってたからお弁当、作り過ぎちゃったかなって!」
リィナがそう言いながらも渡してくれたお弁当を受け取り、俺はリィナにお礼を言った。
「じゃあ、行ってくる!」
「気をつけてね!」
俺は心配そうな顔を浮かべるリィナに笑って手を振った。
※
<アバロン視点>
(何でこんなつまらない仕事をしてるんだよ、俺は!)
俺達『白銀の翼』はリーマスから出る商人の護衛をしている。しかも行き先はど田舎。さらにはギルドを通していないので、報酬など無きに等しいレベルだ。
(冒険者プレートがロックされてなければ、こんな依頼受けやしないのに……)
冒険者プレートのロックとは簡単に言えば、冒険者プレートの機能が停止させられているということ。ロックは冒険者ギルドに足を踏み入れさえすれば解除されるので、これはつまり呼び出しを食らっているということだ。
(クエストの受注はおろか、ステータスを開くことさえ出来ない。それどころか街を出ることさえ難しくなる……)
冒険者は街を出入りする際に衛兵に冒険者プレートを見せる義務がある。その時ロックがかかっていれば、間違いなく冒険者ギルドに連れて行かれる。
(フェイの件か? いや、まさかな……だが、リーマスの冒険者ギルドには行かないのが得策だ。くそっ、他の町に行けさえすれば……)
実はロックは冒険者ギルドに行きさえすればいいので、リーマスではない別の町の冒険者ギルドに行ってもロックは解除出来る。が、冒険者プレートを衛兵に見せずに街を出る方法はかなり限られてる。その一つがコレだ。
「今日は多いな。護衛つきか?」
「運良くね。魔物が活性化していると聞いたから助かったよ」
商人は衛兵と話しながら、ポケットに何かを入れる。すると、衛兵は商人に手形の提示を求めることなく道を開けた。
(しかし何だって賄賂なんか……)
商人ギルドに所属していれば、安い金額で街の出入りが出来る手形を手に入れることが出来る。金がなんぼの商人にとったら無駄そのものじゃないか……
(まっ、どうでもいいか)
よく分からん奴だが、おかげで助かったんだ。問題ない。
「上手く行ったな」
街から大分離れてからアーチがそうささやいた。
「あのお荷物がいたらこうはいかなかっただろうけどね」
エスメラルダの言葉に俺を含めた皆が頷いた。こういう理屈に合わないことがあると、フェイは詳しく調べたがったり、警戒したりして面倒くさいのだ。
(まあ、おかげで助かったこともないではないが……って、そんなことねえよ!)
危ないクエストでも俺達なら絶対切り抜けられるんだ!
「冒険者ギルドのある街についたらロックを解除。そんなに上手く行くのか?」
バルザスが不安そうな声を出す。バルザスは戦闘においては恐怖を知らない勇猛な男だが、こういうシチュエーションには意外と弱い。
「大丈夫だ。俺がよく知っている職員がいるギルドに行けばいいんだ。裏から手を回せば二秒で解決さ!」
「おおっ」
ふぅ、良かった。あんな調子じゃ戦闘に差し障るからな。
それからしばらく歩くと湖が現れ、商人が休憩の合図をした。
「そろそろ休憩にしましょう」
俺達は交代で休憩することにした。まずは俺とアーチが荷物の番をする。
「しかし、何の商売をしてるのかな」
俺と積み荷の番をしているアーチが呟く。積み荷はさほど多くないが、厳重に布に巻かれていて中身は全く分からない。
「分からんが……積み荷は触るなと言われたしな」
まあ、何の商売をしていようと関係ないと言えば関係ないのだが……
「しかもドンマルドなんてど田舎に何の用があるんだか」
商人の目的地であるドンマルドは何もないど田舎。およそ普通の商人が関心を持ちそうな場所とは思えない。
(まあ、細かいことはどうでもいいか)
やがてバルザスとエスメラルダと交代する時間になり、俺はアーチと話をした事自体を忘れてしまった。
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