第10話 奴隷に混ざっていた男Cの証言(2)
「私はね、服が破れる事も鞭に打たれる事も嫌いじゃないんだよ」
逸らした目の向こう側で言っている騎士様の言葉が再び私の耳に入ってきました。
見なくても分かる……騎士様は確実にこちらを見ているのです。
私はあの男の背を見ておりました。男の向こう側にいる私を騎士様はずっと見ているのです。
(やはり……彼は知っているのか……いや、そんな馬鹿な……)
私は怖くなり目を瞑りました。もう騎士様の言葉は聞きたくない、見たくも無いのです。
瞑った目の暗闇でビリビリの服の騎士様に重なる自分がおりました。ですが、騎士様と同じように笑うことなど出来ません。だって、騎士様と私では状況が何もかも違うのですから。
「ああもう、話しても無駄だ!! おーい、お前ら!!」
いつの間にか騎士様と男は口論となり、そして男は薄汚い仲間達を呼びました。
騎士様は男達に取り囲まれております。私は騎士様が……いえ、騎士様の残り少ない服が心配でなりませんでした。
あれ以上痛めつけられると、最早全裸になってしまうのではないか……いや、全裸の方がいっそ良いでしょう。
私はぎゅっと胸の辺りを掴みました。そう、いっそ全て……
しかし、予想とは異なり騎士様の服がそれ以上破れる事はありませんでした。それどころか、騎士様はあの男を鞭で叩いているではありませんか。
どんどん破れボロボロになっていく男の服……
「!!?」
立ちふさがる男達を避けながら一人だけをひたすら叩き続ける騎士様がこちらを見ているのです。
チラチラと、私を視界に入れておりました。何故? 何故だというのか??
そんなはずは絶対に無いはずだと……私は身をすくめ小さくうずくまって震えました。
いつの間にか静かになる部屋……気がつくと争いは終わり、何故か奴隷教育の男が殆ど無い衣服で騎士様に懇願しておりました。どういう事なのか、目を閉じていたので分からないのですが、とにかく騎士様があの男の心を変えたのでしょう。
変わらず微笑みながら鞭を持つ騎士様に他の男達はぞっと顔を青ざめておりました。
抵抗を止めた男達を確認すると、騎士様は奴隷として捕まった者達の一部を開放しました。
開放されたのは殆どが女子供でした。しかし、私を含めた一部の男達はまだ解放されはしなかったのです。
捕まっている物達も、奴らの仲間の男達も動揺しざわざわと騒ぎ始めました。何故か奴隷教育の男は自ら縄に縛られ大人しく座っていました。
「あ、あの、何で我々はここに留まっているのでしょうか」
「私達もそろそろ村に戻りたいのですが……」
奴隷達がざわざわとする中で、騎士様は笑顔を崩さずに腕を組んで話し始めた。
「まぁ、落ち着いてください。この中に……嘘に身を固め、バレないようにと息を潜めている者がおります」
「?!!!!」
心臓がどくんと鳴った。やはり、やはり全てバレていたのだと知って脂汗が滝のように流れた。汗で服が濡れそうになり、必死で拭う。
「ど、どういう事だよ!!」
「まさか、奴隷達の親玉がこの中に混じっているとか言うんじゃないよな??」
私はその言葉を聞いて我に返りました。そうだ、確実に私のことを言っているとはまだ決まった訳では無いのだ……そう思うと少し安堵したのか滝のような汗がぴたりと止まりました。
騎士様はニコリと笑い話を続けます。
「私はね、どんな人間だろうとどんな趣味をしてようと構わないのですよ。ただね、人を騙すのは良くないと思いませんか? 何故隠れる必要があるのです? 同道と太陽の下で服を脱ぎ捨てれば良いと思いませんか?」
その言葉にまた心臓が跳ね上がった。違う、やはり騎士様は確実に私のことを言っているのだ……。
私はちらりと騎士様を見ました。案の定騎士様と目が合います。やはり、騎士様は全て知っているのです。私の中を、見透かしているのです。見透かした上で泳がせているのです。怖い……怖すぎる……汗が止まりません。
「……なぜ分かった」
ふいに私の前に居た男がすくっと立ち上がりました。その服装は薄汚く、明らかにどこかから拐われて来たかのような若い男でした。
「なぜ?」
「俺は一つもボロを出さなかったはずだ。何故俺が奴隷商の親玉だと知っている。こいつらをいつでも切り捨てられるように身分を隠し奴隷に混ざり、あいつが痛めつけているうちに査定を行っていたことは……誰にも言っていなかったはずだ」
何だか分かりませんが奴隷商の親玉らしき人が隠れていたようです。そして何故か勝手に自白しました。
助かった……私は心底安心しました。
「なるほど……ですが、私は貴方が隠れていた理由にも、貴方自身にも興味はありません」
「なっ、何!?」
なっ、何!? は私のセリフです。解決していなかったのです。やはり騎士様の言っていた人は彼ではなかったのです!
私は汗が止まりませんでした。
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