第11話 奴隷に混ざっていた男Cの証言(3)
「ならば……やはり私の事か。どうやら騎士様にはお見通しのようでしたねぇ」
今度は私の隣に居た男がすくっと立ち上がりました。
その男……よくよく見ると奴隷のようなボロボロの身なりがわざとらしいかの様な高貴な顔立ちをしております。
整った髪型、整った髭。……どう見ても貴族でした。お見通し……というかそもそもが怪しいのですよね。
「何故分かったのか……その辺りは流石としか言いようがありませんな。その身なりといい、こんな場所に突然現れた事といい、貴方は恐らく皇室騎士団第二部隊。皇帝の命を受け、地方の情報収集や問題解決の為に暗躍する騎士が居ると噂で聞いてはおりましたが……こんな美しい方でしたとはな」
「……」
騎士様はその貴族風の男を見ても無言でした。恐らく騎士様の仰っている方が彼では無いからでしょうね。
先程と同じパターンで勝手に申し出て来ましたが、彼は一体何なのか。私には何も分かりませんでした。
「もう全てバレているならば今更隠しても無駄でしょうね。私は帝国の貴族でありながら国で禁止されている奴隷の買取に手を出してしまいました。金で買える命、その人生……こんなに素晴らしい制度を禁止するあの若造はどうかしている。私はね、奴隷にはちゃんとこだわっているのですよ。こうして身分を偽り奴隷の中に身を潜め、青田買いと申しましょうか。自分の好みやその奴隷としての素質が素晴らしい者を見極めて買っているのですから、そんじょそこらの闇雲に買う成金と一緒にしないで頂きたいですな」
何という事でしょうか。この貴族のお方、自分好みの奴隷を見つける為に奴隷に混じり品定めしていたと仰るではありませんか。
貴族の方がそこまでなさりますか普通? そこまで来るともうそういう性癖なのでししょう……。
「……なるほど。貴方は恐らく奴隷自体への興味というよりは、最早奴隷に混じって品定めをする事事態が楽しくなっているのでしょうね」
「なっ……」
「大丈夫です、普段堅い服装をして優雅に振舞わなくてはいけない貴族の方にはありがちな趣味です。……ですが」
驚く貴族の男に近付き告げる騎士様……その目線は男を見てはおりませんでした。
「残念ながら貴方が隠れていた理由にも性癖にも然程。趣味としては良いかとは思いますが……何というか、ピンと来ないですね」
騎士様の言葉に貴族の男は驚きよろけました。ええ、そうでしょうね。騎士様がピンと来ているのは残念ながら貴方では無いのですよ。だって、こちらをガン見しておりますし。逆に申し訳ありませんね……。
「ならば! 私達の事だと言うの?!」
今度は私の後ろに居た男女が立ち上がりました。
「結婚している身でありながら彼に惚れてしまった私は奴隷として偽装した彼を……」
「いや、騎士様が言っているのは私だろう! 一度奴隷になってみたかったのだ。貴族の身でありながらこんな趣味があろうとは誰にも言えず遊びで……」
「いいや、絶対に私だ! 隠れて奴隷を品定めするのが趣味で……」
「私が奴隷商だという事は知られてはならぬので……」
何だか知りませんが残っている者達が次々と立ち上がり自分が騎士様に暴かれたのだと口にしました。この状況は一体何なのか、私は本当に分かりませんでした。
あと、ちょいちょい重複しているし隠れ貴族多くないですかこの奴隷達。
当の騎士様は微笑んでこちらをガン見しておりますし。皆さん違うんですよ本当……。
収拾の付かなくなる小部屋。各々が自分だと理由を暴露し言い張る中、どうしたら良いのか分からずに呆然としていた私に騎士様は囁きました。
「人は……隠し事をする時に何処かで暴かれたいという欲望を常に持っているものです。それは絶対にしてはならないと思いながらも、その心への重圧が強くなればなるほど楽しくなってくるものなのです」
「……え?」
「貴方はいつ暴かれるのですか?」
騎士様は座っている私を見下ろしました。その纏っている服は最早服の様相を成してはおりません。肌は露出し、隠し事など何も無いかのようにギリギリの際際まで暴かれているのです。
……いえ、きっと騎士様は可能ならば葉っぱのように残るその一枚ですら取り去る事も厭わないのでしょう……。
「貴方は素晴らしいものを隠しております。でも、それを隠すこと自体に煌きを覚えてはいけません。貴方が本当に煌くのは、本当の自分を出した時です。貴方の好きな事を隠すのではなく、ちら見えさせ、本当の自分を堂々とさらけ出してこそ……貴方なのですから」
「?!!!」
私は胸元を見ました。そう、何故私はこのような事を隠しているのか……。
それは私のささやかな趣味でした。
絶対に知られてはいけないとばかり思っていましたが……確かにそうです。いつの間にかそれを人に知られてはいけないと、彼のように露出してはいけないと……そればかりを考えるあまり、いつの間にか私はそのドキドキ感が癖になり、隠すこと事態が性癖となっていたのです。
あの身分を隠し奴隷に混ざり品定めする貴族の男性と一緒です……でも、それではいけないのです。
私は……私だ。間違えてはならない……。
そう気付いた時……私はすくっと立ち上がり皆の前に出ておりました。
今まで静かにしていた私が前に出てきたので、それまで自分だと主張していた皆さんもしんと鎮まり私の方に注目致しました。
「破って下さい」
「は?」
私は両隣に居た方にお願いしました。服を両側から引っ張る事を。
戸惑いながらも両隣の方は私の真剣な眼差しに応え、両側から服を思いっきり引っ張りました。
綺麗に縦に避け、破れた服の下……露わになった私の身体には女性物の派手な下着が装着されておりました。
パンティだけ? そんな甘い拘りではありません。ブラジャーにガーターベルト、タイツに至るまで拘りました。
オーダーメイドと申しますか……ちゃんと私のサイズにピッタリと合う様に……いえ、パンティとブラジャーだけは少し、ほんの少し小さいサイズにする事で僅かな締め付けが感じられる様になっております。
優しく包みながらも厳しく締め付ける。これぞ下着。男性用の下着ではこうは行きません。
「あ……貴方、何でそんな姿をしているんだ……」
「私の……趣味です。趣味なんです。まごう事なき。私はこの下着を隠す為に鞭で打たれて服が破ける事を恐れました……でも、それは間違いだという事に気が付いたのです。騎士様の、そして皆さんのおかげです」
私は全てのしがらみから解放されました。隠し通さなくてはいけない不安と、そして服という呪縛から逃れ……晴れやかな顔になりました。
私は呆気に取られている方々を背にその場所を後にしました。なのでその後、騎士様や他の方々がどうなったのかは分かりません。
この姿では街に戻れない事を悟った私は、こうして誰にも迷惑をかけずに本当の姿でいられる場所に隠れ住むようになりました。
結局の所、私は常識や法という呪縛から解放される事は難しかったのです。
願わくば私の様な人間が本当の意味で自分を解放出来る世の中になればと……そう未来を信じております。
貴方も何か隠している様でしたら、何時迄も隠さない方が良いですよ? その内隠す事自体に魅力を感じて本末転倒となってしまうかも知れませんから。
「そうですか……それはまぁ、気を付けます」
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