第8話 皇帝への報告2
「以上が通報のありました奴隷売買組織に拐われた女性から聞き取りました話になります」
「……なるほど。その女性にはもう話を聞きに行かないように」
「はい。……もう手遅れかもしれませんが」
皇帝の執務室……宰相の報告を聞いて皇帝は笑顔を崩さないように頑張っていた。
時折手にしている玉璽がピシリとひび割れるような音がした。
この世界で一番硬い材質で作られている筈なのだが、皇帝の困惑が手から溢れ出るようでそろそろ限界である。
皇帝自らが精査して選び抜いた騎士団員。力だけ有っても、その心が気高く無い限り自分には付いて来ることは出来ないと選別したつもりだった。
まさか付いて来るどころか明後日の方向に走る様な人間だったとは……考えたく無さ過ぎて皇帝は窓の外を見た。
未だ何処かをふらふらとしているであろう彼の騎士は……何か行動を起こす時には必ず何かしらの問題がある。結果として正しいのだが、問題以上の何かを撒き散らしている様な気がして……それを考えると胃が痛くなるので考えないようにしていたのだ。
「それで、その奴隷商達は無事拘束出来たのか?」
「はい。通報を受けて直ぐに人を向かわせました……ですが」
宰相の言い淀む様子に皇帝は訝しんで見た。
「何だ? もしや奴隷商達は拘束出来たが、肝心の元締めの手がかりが無かったとか、その様な事か?」
「いえ……」
宰相の死んだ様な目を見て皇帝は嫌な予感がした。彼がその様な目をする時は……大体その騎士関連なのだ。
何をどうこれ以上の問題があるのか、もう奴隷商の仲間達を怯えさせるだけの十分な負の功績を挙げているではないか。
そう皇帝が思っていた所に……宰相は思いもよらぬ言葉を口にした。
「……報告者が……1人だけでは無いのです」
「……は?」
驚き固まる皇帝の前で宰相は先程読み上げた報告書に続いてもう一部の報告書を出した。
嫌な顔で読み上げようとする宰相を見て皇帝は我に返り、慌ててその口が走るのを止めた。
「ちょっと待て。……もう一部とはどういう事だ……?」
「その場に居合わせた1人から、また違う報告を受けているのです」
「……それは、ちゃんとしたヤツなのか……?」
ちゃんとしたヤツなどと、ふわふわとした言葉であったが宰相には皇帝の言わんとする事が分かっていた。
宰相は諦めたように首を振る。
「そうか……」
皇帝は聞きたく無さすぎて耳を塞いだ。が、報告書に上がっている以上それは無くならないのだ……。
もう起きてしまった彼にまつわる報告を……皇帝はただ黙って聞くしかなかった。
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