第6話 奴隷商に拐われた女性Bの証言(2)
「テメェは……さっき痛めつけたよな……?」
「ああ……そうだね」
「……何で出て来るんだ?」
「女を庇う一味違う色男なもので。この余裕のある態度が気に入らないのでしたら、いつまで笑っていられるのか身体に教えて頂いても良いのですよ?」
騎士様が先程男が言った事と丸々同じ事を言っております。ああっ……幾ら私達を庇う為とは言え、そんなに挑発してはいけません。
「俺をおちょくっているのか……? 良い度胸だ、来い!!」
案の定、怒り狂った男は騎士様を乱暴に連れて行きました。
私達は騎士様の身を案じながらも……どこかで「流石に3回は多くないか……?」と、小さな疑問が浮かび上がっていました。
こういう経験が過去無いので、何回庇って連れて行かれるのが相場なのかは全然分からないのですが……普通は一回で抵抗する気も失せるような気がしますし、どんなに頑張って抵抗してもせいぜい2回が限度。3回も同じ方に庇われ、連れて行かれたともなると……その、少々おかしさを感じると言いますか……。
周りの者達も同じ様にどよどよとしておりました。
……いや、いけない。騎士様は連れて行かれそうになっていた私を庇って下さったのです。そんな事を思ってはいけない。
そう思い直すと、やはり周りの人達も同じ様に首を振って思い直しておりました。
すると今度は結構早めに扉が勢いよく開き、またしてもボロボロの騎士様が放り出されました。騎士様の服は更にビリビリになっておりました。
ぜえぜえと息を切らせている男が持つ鞭もボロボロです。どんだけ打ち付けたというのでしょう?
しかし、私はある事に気がつきました。騎士様の擦り傷が……最初に見た時とほぼ変わらないのです。
最初に見た時より明らかにボロボロになっている鞭、ビリビリの服。辛うじてズボンは保たれているものの、その他の部分はビリッビリです。……ですが、その割に怪我が少ないように見えました。
何かが……何かがおかしい。
私は急に不安になりました。
相変わらず鞭を持つ野獣の様な男は怒り狂っておりますが、騎士様は笑顔を崩しません。やはり「私の事は構わなくて大丈夫」だと、「慣れているから」と笑顔で制するのです。
……正直、騎士様の行動が違う意味に取れて来ました。
無抵抗で鞭に打たれている事を「自ら望んでこうしているから大丈夫だ」と仰っているのでしたら……それはもう、別物です。
「いい加減思い知ったか!! いや、思い知れよ!! 何なんだお前は!!」
「大丈夫です。私が望んでこうしているのですから。貴方は何も気にしないで大丈夫ですよ」
「それさっきコイツらに言ってたヤツだよな!! 俺に言うと意味変わっちゃうだろ!!!」
やはり……私達の疑惑は確信に変わりつつありました。騎士様は……わざとやっている。
どういう事なのか、信じたくはありませんが……恐らくその、騎士様は鞭で打ちつけられたい側の人なのではないかと思います。
変態……などという言葉をあの様なお美しい方に付けたいとは思いません……ですが、どう考えてもそちらの方の人では無いかと、私達は思い始めてしまいました。
……それでもまだ、たまたま頑丈で何度も抵抗する不屈の精神を持つ騎士様の可能性も捨てきれません。
「さぁ、そのボロボロの縄鞭では思い知らせ切れないだろう? そこのロープで縛り付けて吊るし、もっと打ちごたえのある皮の鞭を使ったらどうだい? 貸そうか?」
「何でより酷くしようとしてるんだよ!!! やられる側の言う事じゃないんだよそれは!!」
男はとんでもなく怒っておりました。激おこです。奴隷教育などと暴力を振るう様な男が激おこなのですが、怒って暴力を振るった所で騎士様には効いてない事が証明されております。むしろ望んでいる素振りさえあるようなこの状況では、彼はただただ怒る事しかできませんでした。これまで怒りの矛先を鞭で発散していたであろう彼にはやるせ無い出来事でしょう。何せ身体に教える事が出来ないのだから。
「遠慮しなくても大丈夫だよ? 私はね、服が破れる事も鞭に打たれる事も嫌いじゃないんだよ」
「それもう言っちゃってんだよ、お前! マゾだろそれは!」
「マゾ……? それは少し違うね」
「は?」
騎士様は男から鞭を取り上げて壁を打ち付けました。男の振るう鞭とは段違いの威力で、壁にめり込んでヒビが入るほどの威力です。
やはり皇室騎士団の騎士様が弱いなんて事、ありませんものね。騎士様は普通にお強いお方で、その威力に男は目を丸くしておりました。
「マゾヒストとは、は被虐性欲だろう? 肉体的精神的苦痛を与えられたり、羞恥心や屈辱感を誘導されることによって性的快感を味わったりするものだね……。ところがね、私は君の鞭では傷を負うことは出来ないのだよ。ほらね、これ」
騎士様はビリビリのシャツを脱ぎました。擦り傷の様なものはもう既に治りかけておりました。自然治癒なのでしょうか?
「ね? 逆なのだよ。私は貴方が楽しそうに鞭を振るうサディスティックな姿を見たかったのだから。鞭を振るう時の貴方はとても楽しそうに見えましたよ」
……何という事でしょう。この騎士様、変態というには余りにも形容し難い……変態を見るのが趣味なのでしょうか?
ですが、騎士様は悲しそうなお顔をされました。
「……でも、貴方は本当はそちら側の人間では無かった。私はそれが悲しい」
「いや、いくら何でも何回鞭で打ち付けても手応えないどころか何回も向かって来るヤツなんか怖すぎて相手にする訳ないだろ」
確かに、男の言う事は納得出来ます。幾らサディスティックな人間でも、叩いても叩いても効かないようなお相手は御免でしょうに。
「何故? 本当に分からせたいのでしたら分かるまで身体に叩き込んでも良いのではありませんか? 私はそうやって無駄に強靭な肉体を手に入れましたので」
それって騎士様は結局マゾなのではないでしょうか?
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